公募研究
1. YAPメカノホメオスターシスを担うARHGAP18類似遺伝子の神経幹細胞での機能解析GFPタグ付きARHGAP11Aとその欠失変異体の細胞内局在の観察から、ARHGAP11Aの持つ核局在配列(NLS)および核排出配列を同定した。また、ARHGAP11Aを発現した細胞のウェスタンブロット解析から、ARHGAP11AのNLSを欠損させるとYAPが不活性化されることを明らかにした。次にYAPを負に制御するHippo経路分子をノックアウトしたHEK293細胞を用いた解析により、ARHGAP11AがMerlinを介してYAPを制御することが示唆された。RPE1細胞においてYAPのノックダウンによりARHGAP11AのmRNAとタンパク質が減少することを見出した。また、RPE1細胞においてYAP5SAを発現させるとARHGAP11Aタンパク質が増加することを明らかにした。さらに、ARHGAP11Aのプロモーター領域において推定されたTEAD結合配列のChIP-PCR解析により、ARHGAP11Aのプロモーター領域にYAPとTEADの複合体が結合することが示された。2. YAPを介した神経上皮細胞積み上げによる神経管の3 次元構築の分子機構の解析胚発生に伴う形態形成では、分泌性シグナルWnt分子を介した相互作用が細胞間制御に重要であることが知られる。そこで神経管の3次元組織構築においてYAPとWntシグナルの関係性を精査することにした。神経胚期のYAP変異体メダカにおいてWntシグナル関連分子の発現をq-PCR法により検討した結果、YAP変異体において非古典的Wntシグナルの発現が大きく上昇していることを見出した。今回の結果は、神経胚期においてYAPは非古典的Wntシグナルを抑制し、ネガティブフィードバックループを形成していることを示唆する。
2: おおむね順調に進展している
本年度は当初の研究計画に従い、YAPメカノホメオスターシスを担うARHGAP18類似遺伝子のひとつARHGAP11Aの機能解析を推進し、1)ARHGAP11Aタンパク質の細胞内局在を担うアミノ酸配列の同定、2)ARHGAP11AによるHippoシグナルを介したYAPの制御、3)ARHGAP11Aプロモーター上へのYAP-TEAD複合体の結合など多くの重要な知見を得ることができた。さらに、YAP変異体メダカを用いた解析から、神経胚期においてYAPが非古典的Wntシグナルを抑制する可能性を見出した。以上のように、本年度はYAPメカノホメオスターシスと脳構築に関する多くの基盤的な知見を蓄積するに至ったことから、本研究課題の進捗状況は概ね順調であると考えられる。
今後は、ヒトおよびマウスの神経幹細胞においてARHGAP11A/B および18の発現解析を行うとともに、これらが増殖に与える影響を比較する。また、ARHGAP11Bについて、ヒト神経幹細胞での細胞内局在を含めた機能解析を行う予定である。さらに、私たちはメダカ胚とヒト3DスフェロイドでのYAPの共発現解析の比較により、神経上皮の積み上げに必要な遺伝子の候補を得ており、これらの候補分子(群)のメダカでのノックダウンおよび、メダカYAP変異体でのレスキュー実験により、YAPの下流で神経上皮細胞の積み上げを制御する分子を同定する予定である。こうして得られた知見をもとに、多階層生理機能モデル作成ツール(PhysioDesigner, http://physiodesigner.org/)を用いて、脳構築の時間軸に沿ったYAPメカノホメオスターシスの細胞内シグナル伝達系と細胞間相互作用の影響を含む多階層モデルの作成を進める。本モデルは、YAPメカノホメオスターシスによる脳構築の作動原理の解明に加えて、臓器の拡大・再生能を持つYAPの機能を賦活する薬剤や、脳神経系のがんの多くで持続的な発現の見られるYAPに対する抗がん剤のシミュレーションにも役立つと期待できる。
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