研究実績の概要 |
これまでの研究で、軸索ガイダンス因子の細胞内情報伝達機構を解明し、低分子量G蛋白質の1つR-Rasの活性が様々な外界因子の駆動で共通に制御され、R-Rasの軸索内での活性制御が軸索の動的形態制御において普遍的役割を果たしていることが明らかになっている。また、R-Rasの結合分子として、PI3-kinase (J. Cell Biol., 2006, J. Biol. Chem., 2007) やアクチン抗キャッピングタンパク質Ena/VASPのリガンドタンパク質であるLamellipodin (J. Neurosci., 2012)、そしてアクチン足場蛋白質であるafadinを同定しており (MBoC., 2012)、そのうち、afadinは、初代培養大脳皮質神経細胞において、そのC末端のF-actin結合ドメインを介し、軸索分枝形成を担う。 最近の誌上成果で、afadinの選択的スプライシングが、神経細胞発達過程で変化しており、さらに、短いバリアント (S体) が長いバリアント (L体) に対してドミナントネガティブ体として働くことで、L体の細胞膜での集積によるアクチン重合足場形成を阻害するという報告をした (MBoC., 2015)。本研究提案ではそれを踏まえ、「選択的スプライシングが脳構築の場で時空間的に制御され、afadinの各アイソフォームの発現が制御されることで、的確な神経分化・神経回路形成を引き起こされている」という新奇システムの存在を想定し、その機構の解明並びに可視化と操作を目的として研究を進めている。その結果、マウス大脳皮質2/3層神経細胞の発達過程で、S体の発現量が適切に制御されることが的確な脳神経回路の構築に必要であるということを明らかにした。マウス大脳皮質において、発達時期普遍的に発現しているL体に対し、内在性のS体タンパク質の発現量は胎生期には低く抑えられており、出生後に急峻に発現が増加する。そこで、胎生期からCAGプロモーター下でS体を過剰発現させることで、脳梁軸索の脱束化、対側皮質内での層特異的な分枝の抑制等が観察された。
|