研究実績の概要 |
本課題では、マウス胚盤胞期において、栄養外胚葉、内部細胞塊、原始内胚葉、エピブラストへの運命決定過程における転写が時間的にどのように制御されているのか解明することを目的に研究を進めている。現在までに、アセチル化ヒストンと結合するBETファミリータンパク質(BET; Brd2, Brd3, Brd4, Brdtからなる)の機能をJQ1薬剤で阻害した場合、Nanogの発現(内部細胞塊及びエピブラスで発現する)が失われること、その一方で、Oct4, Gata6, Cdx2の発現は影響を受けないことを見いだしている。本年度は、下記の内容を明らかにした。 上述の4種類の細胞系譜で特異的に発現する遺伝子について、新生RNAの転写が核内で影響をうけているか、イントロンを含む蛍光プローブを用いて超解像レベルで可視化した。結果、BETの機能を薬剤で阻害した場合には、Nanog遺伝子座における新生RNA転写は、顕著に低下していたが、Oct4, Gata6, Cdx2の遺伝子座からの新生RNA転写は影響を受けていなかった。つまり、BETは、タンパク質の産生・安定性やmRNAの安定性などには影響を与えず、主に新生RNAの転写レベルでNanogの活性化に働くことが示された。実際、胚盤胞内では、Brd2及びBrd4のタンパク質が核内に特異的に分布していた。また、BETの機能阻害で変動した遺伝子群について、whole mount in situ法を用いて発現解析を行った。結果、低下した遺伝子の多くは内部細胞塊特異的に発現していたが、上昇した遺伝子の多くは、胚盤胞全体でユビキタスに発現していることが分かった。更に、これらの発現変動した遺伝子群がどのようなシグナル経路に関連しているのかIPA解析を行ったところ、胚性幹細胞の維持などいくつかの特定のシグナル経路との関連性が示めされた。
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