研究領域 | ネオ・セルフの生成・機能・構造 |
研究課題/領域番号 |
17H05787
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
木村 元子 千葉大学, 大学院医学研究院, 准教授 (00345018)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | CD69 / NKT細胞 / NKT2細胞 / TCR / 胸腺 |
研究実績の概要 |
iNKT細胞は、胸腺内で正の選択を受け分化し、異なる「エフェクター機能」を有する各iNKT細胞サブセットへと分化する。すなわち、IFNγを産生するPLZF(low)T-bet(hi) NKT1細胞、IL-4を産生するPLZF(hi)T-bet(low) NKT2細胞、IL-17を産生するPLZF(med)Rorγt(hi) NKT17細胞であるが、その分化運命決定の分子機構は不明である。私たちは、各iNKT細胞サブセットへの分化の違いが、胸腺における正の選択の際の抗原(ネオセルフ)の違いによるのではないかと考え研究を進めている。これまでにT細胞の活性化マーカーとして知られているCD69分子を欠損したマウスでは、NKT2細胞の顕著な低下が認められることを発見した。そして、この分化の違いは、正の選択を受けた直後の未成熟なIntermediate NKT(NKT-IM)細胞におけるCD69の発現の違いによるものであることが示唆された。しかし、その分子機構はわかっていなかった。 平成29年度に行った実験結果から、NKT2細胞の前駆細胞であるNKT-IM細胞は、CD69の発現が高く、S1P1の細胞表面への発現を抑制することで、分化過程にあるNKT-IM細胞を胸腺内に長くとどまらせることで、NKT2細胞への分化を誘導することが判明した。つまり、NKT2細胞への分化には、NKT-IM細胞が胸腺内に長くとどまる必要があることがわかった。一方で、NKT1細胞の前駆細胞であるNKT-IM細胞は、CD69の発現が低く、その分化にCD69は必要ないことがわかった。 以上の結果より、各種iNKT細胞サブセットの分化運命決定は、分化段階の初期に起こることが判明した。また分化運命決定を担うのは、正の選択の際の抗原(ネオセルフ)の違いによる可能性を示唆するデータが得られた。この実験結果は、現在論文としてまとめて投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、アンコンベンショナルT細胞の一つであるiNKT細胞に着目して、各種iNKT細胞サブセット(i.e. NKT1細胞、NKT2細胞、NKT17細胞)の分化運命決定に関わる重要な分子機構を明らかにした。特に、NKT2細胞の分化は、特異的にCD69分子を必要とすることが判明した。その理由として、NKT2細胞の前駆細胞は、CD69を高発現することで胸腺内に長くとどまることを可能とし、NKT2細胞への分化プロセスを完遂させることがわかった。現在、その結果は論文としてまとめて投稿中である。 各種iNKT細胞サブセット分化の決定は、TCRシグナルを受け取った初期の段階で起こることが明らかとなったことから、正の選択に使用される抗原(ネオセルフ)の違いが、分化の運命決定をもたらす可能性が示唆された。この点を明らかにする目的で、第一に、各種iNKT細胞サブセットを単離し、現在TCRレパトア解析を行っている。それぞれのiNKT細胞に特徴的なTCR配列が存在するのか、もしくは各種iNKT細胞サブセットはお互いに同じTCR配列を有しているのかを明らかにする。第二に、iNKT細胞の認識抗原である糖脂質は、細菌由来のものが多く報告されていることから、マウスに幅広い抗菌スペクトルを有する抗生剤を飲用させることで、iNKT細胞の分化に違いが見られるか検討している。これらの結果が得られたならば、各種iNKT細胞サブセット分化運命決定にネオセルフ抗原がどのように関与しているかを明らかにできると考えている。以上の結果より、現在までの研究の進捗状況は概ね順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
各種iNKT細胞サブセット分化決定機構へのネオセルフ抗原の関与について明らかにするために、まず第一に、各種NKT細胞サブセットを単離し、TCRレパトア解析を行なう。それぞれのiNKT細胞に特徴的なTCR配列が存在するのか、もしくは各種NKT細胞サブセットはお互いに同じTCR配列を有しているのかを明らかにする。第二に、iNKT細胞の認識抗原である糖脂質は、細菌由来のものが多く報告されていることから、マウスに幅広い抗菌スペクトルを有する抗生剤を飲用させることで、iNKT細胞の分化に違いが見られるか検討する。これらの実験結果から、各種iNKT細胞サブセット分化決定が、正の選択の際の抗原の違いによるものなのか、TCRの抗原認識部位の違いによるものなのか結論を出す。 一方で、iNKT細胞サブセットの分化は、遺伝的背景の異なるマウス間で大きく異なることが知られている。例えば、C57BL/6マウスでは、NKT1細胞が優位に多く、NKT2細胞、NKT17細胞の数は非常に少ない。一方で、BALB/cマウスでは、NKT2細胞が優位に多く、NKT1細胞の数が少ない。このマウスモデル系を用いて、各種iNKT細胞サブセットの分化の違いを生み出す分化機構を調べることで、分化運命決定に関わる抗原とTCRの特異性を明らかにする。 以上の研究を通して、各種iNKT細胞サブセットの分化に関わるネオセルフ抗原の関与について明らかにする。 またiNKT細胞以外のアンコンベンショナルT細胞として、γδT細胞の胸腺内分化機構についても解析を進めていく。
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