研究領域 | ネオ・セルフの生成・機能・構造 |
研究課題/領域番号 |
17H05791
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉田 昌彦 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 教授 (80333532)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 抗原提示 / MHC / リポペプチド |
研究実績の概要 |
細胞内で生成されるリポペプチド抗原レパートリーの全体像を把握し、リポペプチドがT細胞へと提示される細胞内機構の解明に向けた研究を展開した。リポペプチド抗原提示分子として同定済みのアカゲザルMHCクラス1アリル(Mamu-B*098)について、その細胞外領域をIgG-Fcドメインと融合した可溶性タンパク質をコードするDNAコンストラクトを作製し、哺乳動物細胞にトランスフェクションしたのち、培養上清からリコンビナントタンパク質を回収、精製した。さらにメタノール処理によりリガンドの抽出を行い、得られたサンプルを液相クロマトグラフィー/マススペクトロメトリー解析に供し、特異的シグナルの検出を行った。その結果、種々のリン脂質群が検出されたことから、Mamu-B*098の内因性リガンドはリン脂質である可能性が高まった。実際にリン脂質がMamu-B*098の抗原結合溝に結合していること、またその結合様式を解明するため、Mamu-B*098:リン脂質複合体を単離、結晶化し、そのX線結晶構造解析を行った。その結果、リン脂質のアシル鎖部分がMamu-B*098の抗原結合溝に存在するBポケットに収納され、アンカーとして機能することが判明した。これらの結果から、Mamu-B*098は従来のMHCクラス1分子とは異なり、内因性ペプチドを結合しない可能性が考えられた。実際、CRISPR/Cas9システムを用いてペプチドトランスポーター欠損細胞株を作出し、トランスフェクションによりMamu-B*098を発現させたところ、コントロール細胞株と同等の細胞表面発現が観察された。以上の結果は、リポペプチド提示MHCクラス1分子の発現機構が従来のペプチド提示MHCクラス1分子とは異なる機構で細胞表面に発現する可能性を示唆し、その機構の解明に向けてMamu-B*098発現変異細胞株の単離に着手した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
世界に先駆けて同定したリポペプチド提示分子Mamu-B*098について、リン脂質が内因性リガンドとして機能することを生化学的にまた結晶構造学的に証明した点において、順調な研究進展があった。一方、リン脂質以外の内因性リガンドの存在については解析半ばであり、マススペクトロメトリーの感度を上げる等の改善が必要である。この点は次年度に継続して進めていく予定である。変異導入細胞株の樹立については、CRISPR/Cas9システムを用いた実験系の構築を完了し、次年度に向けて十分な基盤が確立できた。
|
今後の研究の推進方策 |
相互に連動した3つのサブテーマを推進する。 1)前年度、リン脂質群がMamu-B*098の内因性リガンドとなることをタンパク生化学的また結晶構造学的に証明した。しかしリン脂質群以外の内因性リガンドが存在するのかどうかの検証は現時点で不十分である。この点は、リコンビナントタンパク質からのリガンド溶出条件を変更すること、また液相クロマトグラフィー/マススペクトロメトリーのウインドウの調整ならびに感度の改善を通して有意な結論に至ることができると考え、これらを着実に進める。 2)研究代表者の研究室において、第二のリポペプチド提示分子の同定ならびにそのX線結晶構造の決定を完了している。この分子についてもMamu-B*098を対象とした前年度と同様の手法で、内因性リガンドの決定を行う。これにより2分子に共通の内因性リガンドが決定できれば、リポペプチド特異的な内因性リガンドと位置づけ、その生成阻害や分解促進を通してリポペプチド提示分子の発現変動を検証する。 3)2)の解析をより網羅的に推進するため、リポペプチド提示分子を発現した細胞株にCRISPR/Cas9システムを用いておよそ2万種の遺伝子を標的とした無作為変異をゲノムワイドに導入し(1細胞あたり1箇所の変異導入)、リポペプチド提示分子の発現あるいは機能が特異的に欠失した細胞株を樹立する。そして原因遺伝子を特定し、リポペプチド提示分子の生合成、アッセンブリー、細胞内輸送における機能の解析を行う。さらにMamu-B*098トランスジェニックマウス(樹立済み)に対して、その責任遺伝子を欠失したノックアウトマウスを樹立し、その機能的発現を個体レベルで検証する。これらの結果を統合し、ペプチド抗原提示経路と対比的にリポペプチド抗原提示経路のモデル構築を完了する。
|