現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、非血縁者間造血幹細胞移植 (UR-HSCT)において患者とドナーのHLA-DPB1不適合によって生じる移植免疫反応が、HLA-DPB1遺伝子の進化学的構造の違いによって生じることを初めて示した。 日本骨髄バンクを介したUR-HSCTでは、HLA-A, -B, -C, -DRB1のアリル型が適合したドナーがHLA完全一致のドナーとして選択され、HLA-DPB1のタイピングは通常施行されていない。そのため、患者とドナーのHLA-DPB1不適合が高率に生じる。近年、UR-HSCTにおける患者とドナーのHLA-DPB1不適合が移植転帰に及ぼす意義について、欧米から報告された二つの異なるモデルが注目されていた。一つはHLA-DPB1のペプチド結合部位を反映したHLA-DPB1 T-cell epitope (TCE)不適合モデル(Lancet Oncol. 2012;13:366)で、もう一つはHLA-DPB1遺伝子の3’UTRに位置する一塩基多型(SNP)と関連したHLA-DPの発現モデル(N Engl J Med. 2015;373:599)である。この二つのモデルの関連性については、これまで明らかにされていなかった。我々は、HLA-DPの発現モデルで示されていたHLA-DPB1遺伝子の3’UTRに位置するSNPは、HLA-DPB1遺伝子の高度に保存されたexon 3から3’UTR領域のtag SNPであることを示した。 本研究は、前述した急性GVHDや移植予後と関係するHLA-DPB1不適合のトピックスとなっている二つのメカニズムが、各々進化学的に異なる領域を反映していることを初めて示した。
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今後の研究の推進方策 |
HLA-DPB1遺伝子以外のHLA class II遺伝子及びHLA class I遺伝子について、全遺伝子領域のデータを用いた進化学的な解析を行う。それに基づいた進化学的な遺伝子構造が移植免疫反応にどう影響するか、非血縁者間骨髄移植例のHLAデータと臨床データを用いた解析を進める。特に、急性GVHD、慢性GVHD、白血病再発などの移植転帰との関連について解析する。急性GVHDで標的となる臓器は主に皮膚、肝臓、腸管である。腸管のGVHDは他の臓器のGVHDと比較して重症化しやすい傾向があること、慢性GVHDにおいては、肺病変など急性GVHDとは異なる臓器も標的となることから、患者とドナーで不適合となるHLAと標的となる臓器との関連性も検討する。 解析症例は、患者とドナーのHLAアリルがリタイピングされ、HLA-A, B, C, DRB1, DQB1, DPB1の第1区域と第2区域が同定されており、GVHDとGVL効果を明確に解析できるような条件を備えたペアを選択する(約5000ペア)。
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