公募研究
TRIM28(Tripartite motif 28)は、ヘテロクロマチンタンパク、ヒストン脱メチル化酵素およびヒストンメチル化酵素と会合し、抑制性ヒストン修飾によりグローバルに転写抑制を起こす役割を持つ分子である。研究代表者は、TRIM28分子をマウスのTリンパ球で特異的に欠失させると、自己反応性のIL-17産生性ヘルパーT細胞(Th17)が分化、活性化し、自己免疫疾患を発症して早期に死亡することを報告している (Chikuma et al. Nat.Immunol. 2013)当研究の目的は、TRIM28分子の、免疫系における機能をさらに詳細に解析することである。本年度はTRIM28を、抗原提示細胞で欠損するマウスを作成し、これらマウスの抗原提示細胞による抗原提示能が上昇し、Tリンパ球をよく活性化することを見出した。特に、自家リンパ球混合反応(auto MLR)において、TRIM28欠損抗原提示細胞が自家のT細胞を強く活性化する現象を見出し、これは、遺伝子サイレンシング機構がうまく働かないため、「新規自己抗原(ネオセルフ)」として、正常細胞では提示されない新規抗原が生成されていることを示唆するデータである。新規抗原の実体を理解するため本年度行ったトランスクリプトーム解析により、TRIM28欠損細胞では、多くの免疫学的隔絶抗原、および、種々の、本来は発現抑制を受けるべき転写産物が有意に上昇していることを明らかにした。現在、これら転写産物が老化に伴いタンパクとして発現し、T細胞に異物として認識され、自己免疫疾患の原因となる可能性を検討中である。これとは別に、免疫抑制受容体PD-1の翻訳後修飾や、制御性T細胞の機能抑制をターゲットにしたがん免疫増強法などについて、論文を6報、総説を3報発表した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、細胞レベルでの遺伝子発現調節異常が免疫活性化に及ぼす影響を模索するため、新規動物モデルを作出し、当該マウスから興味深い表現型が得られたために、初期の目標は十分に達成できたと考えている。研究代表者の専門である、免疫制御に関しても多くの研究発表を行うことが出来た。また、ネオセルフ領域に参加したことで、班員とのあらたな共同研究の芽も生まれ、発展性のある予備的知見を得ている。
トランスクリプトーム解析の結果同定した抗原が、実際にタンパクとして発現し、T細胞を刺激するのかを検証する。また、TRIM28欠損が自己免疫疾患の原因となる可能性を検討中である。本研究では比較的自己免疫疾患に抵抗性であるC57BL/6系統で行うため、明らかな表現型が得られない場合、自己免疫疾患に感受性のPD-1KOに、TRIM28欠損マウスを交配することも考えている。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件)
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