公募研究
がん細胞に蓄積する遺伝子変異によるタンパクのアミノ酸置換や糖鎖修飾等の異常、また異常発現はネオセルフ抗原を生み出すが、それに対する免疫応答の詳細は不明である。しかし、腫瘍組織に浸潤するB細胞とT細胞の細胞数は患者の予後と正の相関を示すことが知られている。以前より、腫瘍浸潤T細胞(TIL-T)はがん免疫療法に用いられているが、TIL-Tが認識する抗原はあまり知られていない。一方、腫瘍浸潤B細胞(TIB)は、抗原受容体のクラススイッチ・親和性成熟を経ていることからがん抗原に反応し活性化しており、また、がん抗原をT細胞へ提示していると思われる。そこで、TIBをクローン化し、がん特異抗原を認識するものを特定し、その抗原受容体が認識するネオセルフ抗原を同定し、さらに、TIBクローンが提示するネオセルフ抗原を認識するTIL-Tクローンを特定することを目標に研究を行っている。この研究によりがんネオセルフ抗原に対する免疫応答の存在を証明し、その抗原認識機構の解明を推進し、新たながん免疫細胞療法や抗体医薬・CARの創出をめざす。本年度は、がん患者の腫瘍組織に浸潤するTIBを単離し、CD40リガンドとBAFFを強制発現させたフィーダー細胞上で培養して、さらにBach2を遺伝子導入することによって長期に培養可能な方法を確立した。また、Bach2の活性を抑制するhemeを培養に添加することにより、このTIB細胞の形質細胞への分化を誘導し抗体産生を促進する方法も見出した。こうして培養上清中に得られた抗体を用いて、TIBの元のがん組織切片を免疫染色したところ、腫瘍細胞が染色される例が見出された。よって、がん抗原に特異的なTIB細胞クローンを樹立する準備が整った。
3: やや遅れている
がん患者の腫瘍組織に浸潤するTIBの長期培養、抗体産生誘導の系は確立したが、TIB細胞の元であるがん組織試料の入手に時間がかかり、また、凍結切片を入手できる機会が少なかった。さらに、TIB細胞から産生誘導した抗体を用いてフローサイトメトリーで表面抗原の同定をするためには、in vitroあるいはin vivoで生存する腫瘍細胞が必要であるが、腫瘍細胞をin vitroで増殖させるのは困難であり、唯一、免疫不全マウスに移植してin vivoで継代する方法(Patient-derived xenograft: PDX)しかなく、その成功率は未だ低い状況である。
1. がんネオセルフ抗原を認識する抗体産生細胞の選択:作製した各TIB細胞のヘム添加により培養上清に産生された抗体を用いて、がん組織の凍結切片およびPDX腫瘍細胞を染色することにより、がん細胞に強く結合する抗体を産生するTIB細胞を選択する。その後、陽性TIB細胞をクローニングし、さらにその中からがん細胞特異的抗体を産生するTIBクローンを選択していく。2. がんネオセルフ抗原を認識する抗体の作製およびその標的抗原の特性解析:選択したTIBクローンの抗体V領域遺伝子を単離し、マウスCγ2a領域を有するヒト-マウスキメラ抗体を作製する。この抗体を用いて、まず、がん組織切除検体および正常組織の 組織染色を行い、がん細胞特異性を確認する。がん切除検体抽出液を免疫沈降し、結合したタンパクの分子量、等電点を調べる 。3.作製した抗体の標的抗原の同定:上記抗体で沈降されたタンパクを質量分析により同定する。そのタンパクをコードするがん細胞由来のmRNAの塩基配列を決定し、変異を特定する。抗体がその変異を認識しているか、あるいは、糖鎖やリン酸化等の修飾異常を認識しているかについて調べる。正常組織に発現しないタンパクの異常発現である可能性も検証する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
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