研究領域 | ネオウイルス学:生命源流から超個体、そしてエコ・スフィアーへ |
研究課題/領域番号 |
17H05824
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
鈴木 由紀 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (30712492)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 内在性ウイルス由来エレメント / アフリカ獣上目 / ボルナウイルス / 機能獲得 / 進化 |
研究実績の概要 |
ヒトを含め様々な生物のゲノムには、内在化したウイルス由来の塩基配列(EVEs)が数多く存在し、これらEVEsは宿主の進化に寄与してきた。しかし多くのEVEsは、従来、宿主にとって不要であることから、フレームシフトが起こるなどにより進化の過程で遺伝子構造が壊れ、機能を失うことが多い。その中で、進化の過程でORFが維持され続けているEVEsは、宿主体内で蛋白質として発現し、何かしらの機能因子として働くことにより宿主の進化に寄与してきた可能性がある。 ゾウやマナティなどが属するアフリカ獣上目動物で発見されたボルナウイルスN遺伝子様配列(EBLN)は、進化の過程で長いORFを8千万年以上も維持し続けており、アミノ酸レベルで負の自然選択圧が検出されている。従って、EBLNはアフリカ獣上目動物の体内で重要な蛋白質として機能している可能性があるが、その蛋白質機能や機能獲得を起こしたメカニズムは不明である。そこで本研究は、アフリカ獣上目動物で発現しているEBLN蛋白質の機能を解明し、EBLN蛋白質がアフリカ獣上目動物の進化の過程で果たして来た役割を明らかにすることを目的とした。 アフリカ獣上目EBLNは親水性領域が保存されているため宿主因子と相互作用している可能性がある。そこで共免疫沈降を行ったところ、DNA nu polymerase, TRIM-8, UBA52がEBLN蛋白質と相互作用する候補蛋白質として同定された。一方、ゾウ培養細胞で発現しているEBLNをノックダウンした場合、細胞生存率や遺伝子変動に大きな変化は認められなかった。しかし、ゾウの近縁種であるケープハイラックスの各種臓器ではEBLNがmRNA及び蛋白質として発現していたことから、EBLNはケープハイラックスの体内で機能していることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.ゾウの培養細胞で内因性に発現しているlaEBLNをノックダウンするsiRNAとコントロールsiRNAを設計し、laEBLNをノックダウンした後にゾウ細胞の生存率をコントロールと比較した。しかし、両細胞間で細胞の生存率に有意な差は見られなかった。また、RNAseqによりゾウ細胞で発現しているmRNAの発現変動も比較したが、多重検定を行った統計解析では有意に発現変動を示した遺伝子は同定できなかった。 2.ゾウの培養細胞で発現する蛋白質と相互作用する宿主蛋白質を同定するために、His-tag融合リコンビナントlaEBLN蛋白質(rlaEBLN)とゾウ細胞のライセートを用いて共免疫沈降反応を行い、rlaEBLNと相互作用する候補蛋白質を質量分析により解析した。その結果、DNA nu polymerase, TRIM-8, UBA52が候補蛋白質として同定された。 3.生体組織におけるEBLN蛋白質の発現分布を知ることは、EBLN蛋白質の機能を予測する上で有益な情報となる。しかし、これまで研究材料で用いて来たゾウは新鮮組織を得ることが難しいため、組織の発現解析が困難である。ゾウの近縁種であるケープハイラックスはウサギ程のサイズで、広島市安佐動物公園で繁殖させている。そこで、北海道大学の松野先生のご協力を頂き、広島市安佐動物公園から死亡したケープハイラックスの新鮮な組織サンプルを提供して頂いた。またその際にマルミミゾウの血液サンプルも頂くことができた。そこで、ケープハイラックスの各種臓器からmRNAおよび蛋白質を回収し、qRT-PCRおよびウェスタンブロッティングでpcEBLNの発現を解析したところ、pcEBLNのmRNAおよび蛋白質は様々な臓器でユビキタスに発現していた。
|
今後の研究の推進方策 |
1. siRNAのノックダウンによる影響が低かった原因として、強制発現したlaEBLN蛋白質は安定性が高そうであったことから、siRNAのノックダウンでは内因性に発現しているEBLN蛋白質を抑制しきれなかった可能性がある。そこで長期的にlaEBLN蛋白質をノックダウンできるsiRNA発現ベクターを用いてゾウ細胞で発現しているlaEBLN蛋白質をノックダウンし、ゾウ細胞の表現系に与える影響(アポトーシスなど)やRNAの発現変動を再度解析し、これまで得られたデータの再現性を確認する。 2.質量分析によって同定されたlaEBLN蛋白質と相互作用する可能性がある候補蛋白質が実際にlaEBLN蛋白質と相互作用することを確認するために、内因性に発現している蛋白質を標的とした共免疫沈降反応を行う。また、相互作用する候補蛋白質をノックダウンした際にlaEBLN蛋白質の細胞内局在にどのような影響を与えるのかについても解析する。さらに、laEBLN蛋白質は宿主細胞の核酸(DNAまたはRNA)と相互作用する可能性もあることから、PAR-CLIP法などによりlaEBLN蛋白質に核酸が結合する可能性についても検討する。 3. laEBLN蛋白質の小胞体局在シグナルを同定するために、pcEBLN蛋白質の細胞内局在を解析する。もしpcEBLN蛋白質も小胞体に局在した場合、laEBLN蛋白質とpcEBLN蛋白質は共通の小胞体局在シグナルをコードしている可能性がある。小胞体局在シグナルの候補配列が予測された場合、アミノ酸変異を挿入したlaEBLN蛋白質とpcEBLN蛋白質を培養細胞で強制発現し、細胞内局在が変化することを確認することによって小胞体の局在シグナルを同定する。
|