研究領域 | ネオウイルス学:生命源流から超個体、そしてエコ・スフィアーへ |
研究課題/領域番号 |
17H05825
|
研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
村田 和義 生理学研究所, 脳機能計測・支援センター, 准教授 (20311201)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 巨大ウイルス / 電子顕微鏡 / 構造 |
研究実績の概要 |
本研究では、昨今相次いで発見される巨大ウイルスにスポットを当て、その構造を電子顕微鏡を使って詳細に観察し、それを既知のものと合わせて比較分類することによって構造学的な系統進化地図を作成する。巨大ウイルスは、自己以外のゲノムを多く含み、内部構造や触手や口のような外部器官を持つものもあり、全体としてはバクテリアや細胞核に近いような構造を形成している。しかし、その詳細な全体構造がわかっているものは少なく、その正体は未だ謎に包まれている。本課題では特に、巨大ウイルスの詳細な全体構造を低温電子顕微鏡を用いて高分解能に解析し、さらに、巨大ウイルス粒子の形成過程を超高圧電顕トモグラフィーを用いて解析する。そして、これまで主としてゲノムの比較によって行われてきた系統進化研究に新しい知見を与える。 これまでに、1)巨大ウイルスの高分解能構造解析として、巨大ウイルス「ピソウイルス」「メルボルンウイルス」「トーキョーウイルス」の低温電子顕微鏡による構造解析を行い、2)大型ファージ「XacN1」の構造解析として、XacN1の高分解能低温電子顕微鏡像を多数撮影し、頭部は正二十面体対称性を、尾部はらせん対称性を過程してそれぞれ構造解析を行った。そして、3)新種「メデューサウイルス」形成過程の構造解析として、新種の正二十面体巨大ウイルス「メデューサウイルス」の低温電子顕微鏡単粒子解析を行うとともに、宿主アメーバ内での粒子形成過程を樹脂包埋切片により観察した。 これらの結果をもとに、ウイルス形態に基づく比較分類を開始し、系統進化地図を作成を行っている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)巨大ウイルスの構造解析: 巨大ウイルス「ピソウイルス」「メルボルンウイルス」「トーキョーウイルス」の低温電子顕微鏡による構造解析を行った。「ピソウイルス」の構造解析では、(1)粒子のサイズが多様(1,530±230 nm)で、(2)表面を低密度物質で覆われており、(3)粒子内を区画する膜状の構造が見られた。同属の「メルボルンウイルス」および「トーキョーウイルス」では、(1)核膜に包まれたウイルスゲノムがさらにT=304の巨大な正二十面体キャプシドタンパク質で覆われていること、(2)我々がLDB(Large and density body)と名付けたリボソームと同等のサイズの粒子を核質の中に1つ含むことを明らかにした。 2)大型ファージ「XacN1」の構造解析: XacN1の高分解能低温電子顕微鏡像を多数撮影し、頭部は正二十面体対称性を、尾部はらせん対称性を過程してそれぞれ構造解析を行った。頭部は各5回対称軸の頂点に短い突起構造を持つことがわかった。 以上、研究はおおむね計画通り進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
1)巨大正二十面体ウイルス「トーキョーウイルス」については、超高圧クライオ電子顕微鏡を用いて高分解能電子顕微鏡像を多数収集し、サブナノメートル分解能での構造解析を行う。このことによって巨大正二十面体粒子の形成機構を明らかにする。 2)大型ファージ「XacN1」については、尾部の先端構造、尾部と頭部をつなぐ構造も含めて、さらに高分解能の構造解析を進め、巨大ファージ全体の構造基盤およびウイルスゲノムの保持、放出機構を明らかにする。 3)新種の「メデューサウイルス」については、低温電子顕微鏡単粒子解析によってキャプシドの構造を高分解能で明らかにするとともに、ウイルスを感染させたアメーバの径時的に固定した試料の樹脂包埋切片の観察から、まだ明らかになっていないウイルスゲノムのキャプシドへのパッケージングの瞬間を捉える。 本研究によって得られたウイルスの詳細な構造を既知のウイルス構造も含めて比較分類し、構造学的な系統進化地図を作成し、現在主流となっているゲノムによる系統進化地図と比較する。
|