まず、地球上のウイルスの多様性と総体に関して、2016年のNatureの論文(Paez-Espino et al)で発表された12万本以上の塩基配列データの中から、宿主細菌が種レベルで推定された211のウイルスグループ(種)を抽出し、進化の原動力としての宿主に重複感染したウイルス間で生じるゲノムの組換えに注目して解析した研究を論文にまとめた(論文の査読過程で上記のNature論文の著者も加わり、Scientific Reportsに出版)。80%以上のウイルスグループで組換えが検出され、そのうち25のウイルスグループで組換えが特に高頻度に検出され、それらは、ウイルスの大系統樹の中で幅広く分布し、口腔細菌を宿主とすることが明らかになった。さらに、組換えが特に高頻度に検出される遺伝子は、ファージの形態形成に関する遺伝子に有意に多く、口腔細菌を宿主とするファージの一部は、ゲノムの頻繁な組み換えによって宿主の免疫系から逃れ続けている可能性が明らかになった。この成果の口頭発表を、進化学会、口腔感染症学会、ゲノム微生物学会、国立遺伝研の研究集会で行った。 次に、ウイルスと宿主細菌の関係を探るモデル系として、両者が最も高密度に存在する環境の1つとされる口腔に注目するという観点から、唾液を可能な限りdeepにショットガンメタゲノム解読する研究について、新たに「先進ゲノム支援」に採択され、HiSeqだけでなく、唾液1mLから抽出されるDNA量(PacBioに必要な量の半分以下)にも適用可能なOxford Nanoporeの最新機種PromethIONによる解読を、まずは健常者由来の4サンプルを対象に行った。一方、口腔内の細菌叢・ウイルス叢と疾患との潜在的な関係を探るために、口腔疾患の患者由来の唾液の収集も行った。これらの解析には、次年度から始まる本領域の第二期公募研究で取り組む。
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