研究領域 | ネオウイルス学:生命源流から超個体、そしてエコ・スフィアーへ |
研究課題/領域番号 |
17H05827
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
竹田 誠 国立感染症研究所, ウイルス第三部, 部長 (40311401)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ウイルス / 進化 / 哺乳動物 |
研究実績の概要 |
地球上に現存することが分かっている8種のモルビリウイルス(MoV)の宿主特異性は、受容体SLAMの利用能に大きな影響を受けている。SLAM遺伝子の変異により特定のMoV感染から免れるように進化した個体は、次第に集団の中で優勢になったとも予想され、一方、SLAM遺伝子の変異に適応するように、MoVも進化を続けたと考えられる。これまでにもSLAM進化とMoV進化との関連(共進化)が報告されている。本研究課題は、MoVとSLAMに関して、これまでの遺伝子解析、ウイルス学研究のみでは十分には解明できなかったタンパク質の機能的側面や計算化学的側面、地球環境生態学的側面を補完し、ウイルスと哺乳動物共進化の明確な一例を示すことを目的としている。 計算化学とバイオインフォマティクスを融合した第四次革新手法を用いて、回避感染進化に関わるSLAM上のアミノ酸を予測した。また、H-SLAM間相互作用エネルギーを変化させる点変異の効率的理論予測法を開発した。 実際のH-SLAM間相互作用の評価については、膜融合を指標にして定量的に解析する系を開発した。各種MoVのHタンパクと22種の様々な哺乳動物SLAMとの相互作用を解析した。MeV Hタンパクは、霊長類SLAMへの特異性が明確であったが、牛SLAMも効率的に利用できた。逆に、CDV Hタンパクは、広域な動物種のSLAMを利用できたが、ヒトを含む特定の霊長類のSLAMが利用できなかった。PPRV、RPVのHタンパクも、比較的広域な動物種のSLAMを利用できたが、CDVとは異なる特徴的な性質が見られた。 今後、計算化学のデータと膜融合解析データを統合的に解析し、鍵となる点変異の抽出を行い、その点変異を再びH-SLAM間相互作用エネルギー解析と膜融合解析で評価して、MoVと哺乳動物SLAM遺伝子の共進化の全容解明を目指す計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計算化学とバイオインフォマティクスを融合した第四次革新手法を用いて、回避感染進化に関わるSLAM上のアミノ酸を予測した。また、H-SLAM間相互作用エネルギーを変化させる点変異の効率的理論予測法を開発した。 実際のH-SLAM間相互作用の評価については、膜融合を指標にして定量的に解析する系を開発した。イヌジステンパーウイルス(CDV)、小反芻獣疫ウイルス(PPRV)、麻疹ウイルス(MeV)、牛疫ウイルス(RPV)の野生株Hタンパクと22種の様々な哺乳動物SLAMとの相互作用を解析した。アザラシジステンパーウイルス、クジラモルビリウイルスについては、二種使用の大臣確認の審査中である。MeV Hタンパクは、霊長類SLAMへの特異性が明確であったが、牛SLAMも効率的に利用できた。このことは、MeVがRPVから進化してきたことと関連していると考えられる。逆に、CDV Hタンパクは、広域な動物種のSLAMを利用できたが、ヒトを含む特定の霊長類のSLAMが利用できなかった。この結果は、近年のCDVの宿主域拡大を考える上で重要である。また、Lionから分離されたCDVは、イヌSLAMの利用能が低く、CDVの進化を考える上で興味深い。PPRV、RPVのHタンパクも、比較的広域な動物種のSLAMを利用できたが、CDVとは異なる特徴的な性質が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、計算化学のデータと膜融合解析データを統合的に解析し、鍵となる点変異の抽出を行い、その点変異を再びH-SLAM間相互作用エネルギー解析と膜融合解析で評価して、MoVと哺乳動物SLAM遺伝子の共進化の全容解明を目指す計画である。
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