モルビリウイルスは、従来、非常に限られた宿主動物にのみ強い病気を引き起こすと考えられてきた。しかい、近年、本来の宿主動物とは異なる目の動物にも致死的な感染を起こすケースが確認されている。モルビリウイルスの宿主域は、モルビリウイルスの受容体結合タンパク(Hタンパク)が、感染しようとする動物(もしくはヒト)の受容体SLAMに結合できるかどうかが、非常に大きな決定要因である。開発した定量的H-SLAM機能的相互作用解析系を用いたキメラSLAM、ならびに点変異SLAMの機能的解析から、SLAMのN側最末端のアミノ酸一点変異で、ヒトまたは動物のSLAMの機能的な差異が生まれていることを示した。さらに既報のMV-H/SLAM複合体構造を鋳型として、既報構造の欠損部と補完した完全型の麻疹ウイルス(ヒトのモルビリウイルス)-HとヒトSLAM複合体構造を構築した。その結果、ヒトSLAMのN末端部分が麻疹ウイルスHタンパクと有効な相互作用を形成していることを証明した。分子動力学(MD)シミュレーションによって、特定の一点変異による結合自由エネルギー(ΔG)の変化を解析し、当該変異によってHとSLAMの相互作用が大きく変化することを証明した。さらに、SLAMの残基毎のゆらぎ(RMSF)を評価し、SLAMのN側最末端のLOOPドメインが大きく揺らいでおり、フラグメント分子軌道法に基づく高精度第一原理計算による相互作用エネルギー(IFIE)解析によって、SLAMのN末最末端領域の特定残基と麻疹ウイルス-Hの特定の残基とのCH/Π相互作用形成が示された。そこし、開発した定量的H-SLAM機能的相互作用解析系を用いて解析を行い、その相互作用が、モルビリウルスの宿主域決定に重要な意義があることが証明された。
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