研究領域 | ネオウイルス学:生命源流から超個体、そしてエコ・スフィアーへ |
研究課題/領域番号 |
17H05828
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
酒井 宏治 国立感染症研究所, ウイルス第三部, 主任研究官 (70515535)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 共生 / パラミクソウイルス / 不顕性感染 |
研究実績の概要 |
トリパラミクソウイルス(APMV)は、鳥類を宿主にし、生命の誕生以降という長い間、持続感染や潜伏感染という戦略をとらずに、今日まで存在していると考えられている。APMVには、宿主に非病原性の(不顕性感染する)無症状腸型APMVが存在し、鳥類と無症状腸型APMVの共存には片利共生が成立していると考えることができる。本申請研究では、① これまで未整備の研究環境である『鳥類(野生水禽及び家禽)の腸内環境の研究基盤』を構築し、② 『なぜ、無症状腸型APMVは、鳥類との共生で、呼吸器でなく腸管で複製するのか?』及び、③ 『鳥類と無症状腸型APMVは、相利共生していないのか?』という疑問を明らかにすることを目指します。 1)鳥類の腸内環境の研究基盤の構築 i) 鳥類腸管の細胞培養系を確立した。 ii) 鳥類腸内細菌叢の解析方法を確立した。 iii) 鳥類セリンプロテアーゼの一部の全配列を同定した。TMPRSS2遺伝子欠損マウスを用いた実験から、HA開裂部位が弱毒型配列のインフルエンザAウイルスと同様に、パラミクソウイルスのマウスパラインフルエンザウイルスもTMPRSS2が宿主因子であることが示唆された。ニワトリ及びカモの2つのセリンプロテアーゼの配列を決定した。それらプラスミドを用いた機能解析により、インフルエンザウイルスのHA開裂が認められた。 2)鳥類腸管での共生意義:トリインフルエンザウイルスとカモ及びニワトリの気管、肺、腸管の全ての初代細胞を用いた解析では、組織間の顕著な差は認められず、呼吸器でなく腸管で複製する理由説明できなかった。一方、肺と腸管でのトランスクリプトーム解析により、膜蛋白質の開裂に関与の可能性のある3種のセリンプロテアーゼの遺伝子発現が、肺と比較して腸管で発現量が高いことから、腸管でのウイルス複製の効率の良さが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)鳥類の腸内環境の研究基盤の構築 i) 鳥類腸管の培養系確立:カモ及びニワトリの気管、肺、腸管の初代細胞を樹立した。 ii) 鳥類腸内細菌叢解析方法の確立、鳥類腸内細菌叢のポピュレーションデータの構築:16Sメタゲノム解析による、野生カモ及び商業用鶏、SPF鶏の腸内細菌叢を測定方法の確立と基礎データの集積を実施した。 iii) 鳥類の肺・腸管のRNA-seq解析:カモ及びニワトリの肺及び腸管で発現している遺伝子の網羅的解析を実施した。現在、カモの16450遺伝子について、現在解析中である。今後、ニワトリについても、同様に行う。 2)鳥類腸管での共生意義:トリインフルエンザウイルスとカモ及びニワトリの気管、肺、腸管の全ての初代細胞を用いた解析では、組織間の顕著な差は認められず、呼吸器でなく腸管で複製する理由説明できなかった。一方、肺と腸管でのトランスクリプトーム解析により、膜蛋白質の開裂に関与の可能性のある3種のセリンプロテアーゼの遺伝子発現が、肺と比較して腸管で発現量が高いことから、腸管でのウイルス複製の効率の良さが示唆された。 3)不顕性感染をするセンダイウイルスcCdi株の性状解析:cCdi株は、N遺伝子のアミノ酸変異のみで非病原性株になった。cCdi株は、病原性株と異なり、copyback型DIゲノムを産生し、IFNβを効率よく誘導し、不顕性感染していた。copyback型DIゲノムは、RIG-Iの作動薬であることから、マウスとの共生で、相利共生の役割を担っている可能性が考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
1)鳥類の腸内環境の研究基盤の構築 継続して未同定の鳥類セリンプロテアーゼの同定を試みる。配列決定できたプロテアーゼに関しては、プラスミドを用いた膜蛋白質開裂能の検証を行う。 2)鳥類腸管での共生意義 ニワトリ及びカモの肺、腸管で発現している遺伝子の網羅的解析を継続して実施する。特に解析が未実施のニワトリについて、カモと同様に、解析する。 3)鳥類と無症状腸型APMV は、相利共生していないのか? ニワトリあるいはカモのAPMV感染実験を実施し、善玉ウイルスとしての腸内環境の正常化への貢献を検証する。また、マウスとセンダイウイルスcCdi株の宿主の生体システムへの貢献について、検証を行う。
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