研究領域 | ネオウイルス学:生命源流から超個体、そしてエコ・スフィアーへ |
研究課題/領域番号 |
17H05829
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
小椋 俊彦 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 上級主任研究員 (70371028)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 誘電率顕微鏡 / バクテリア / ウイルス / 感染 / 共生 / アメーバ |
研究実績の概要 |
本提案では、これまで観察が困難であった、水溶液中の非染色・非固定のウイルスをダメージ無く観察する電子線走査誘電率顕微鏡を開発し、ナノスケールでのウイルス感染・増殖・共生過程の観察と組成分析を行う。この目的のため、走査電子線を用いたウイルス解析用の誘電率顕微鏡の開発を行った。平成29年度は、本研究の目的である水溶液中のウイルスの感染過程を高分解能で観察する観察ホルダの開発と観察システムの高感度・高速化を行った。観察ホルダの高分解能化では、薄膜の厚さを従来の50nmから20nmへと薄層化し、さらに薄膜上部のタングステン層も10nm以下とした。 初年度のウイルスの感染・増殖実験として、大腸菌とT4ファージの感染・増殖過程の観察を行った。実験方法としては、大腸菌とT4ファージの水溶液を混合し、その混合液を観察ホルダに封入し、SEMチャンバー内へと設置する。その後、高分解能の走査電子誘電率顕微鏡を用いて観察を行った。観察画像は、80秒に1枚のペースで連続的に取得した。これにより、T4ファージがバクテリアへと付着し、バクテリア内部でファージが複製され増殖する過程、さらにはT4ファージが細胞膜を破り放出される状態を観察することに成功した。これに加えて、より致死性の低いファージ株を用いることでウイルスとバクテリアの共生状態の直接観察を行った。さらに、アメーバと巨大ウイルスとの感染過程の観察と解析も行い、溶液中での観察を行うことができた。巨大ウイルスをアメーバーに感染させてから、2時間~8時間までの観察を行い、アメーバー内の巨大ウイルス工場の形成過程も観察することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初目標としていた、バクテリアとファージとの感染・増殖過程を走査電子誘電率顕微鏡により、溶液中で非染色・非固定の状態で観察することができた。さらに、その経時変化を観察することに成功した。加えて、アメーバ―と巨大ウイルスの感染から増殖過程の解析を進めており、当初の目標に沿っておおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、哺乳類の培養細胞を薄膜チップ付きの特殊なディッシュホルダーに培養し、これにウイルスを感染させ観察するための装置や観察技術の開発を行う。哺乳類の培養細胞では、培養や継代にCO2インキュベーターが必要である。さらに、誘電率観察の時間が2~4時間程度と想定すると、その間、観察ホルダ内の培養細胞を生きた状態で保持する必要がある。このためには、観察ホルダ内の水溶液の酸素濃度やCO2濃度を適正値に保つことが必須となる。これを達成するためには、観察ホルダを改良し、酸素濃度とCO2濃度を一定とする機構を組み込む予定である。現在想定している機構は、細胞試料を観察ホルダに封入した後に、ホルダ内の酸素とCO2の保持スペースを設け、ここに所定の酸素とCO2濃度のガスを入れ封入する。こうした培養観察ホルダの開発を平成30年度初頭より行い、年度の半ばには、完成させる予定である。さらにウイルス感染した培養細胞に対する誘電率観察と特性スペクトルによる組成分析も並行して行える様に観察システムの開発進める。構造情報としての誘電率観察像と組成情報としてのスペクトル情報を詳細に分析する新たな画像処理アルゴリズムも本年度で開発する予定である。これは、誘電率画像の構造とスペクトルによる組成分析画像とを自動で認識し、DNAやタンパク質、脂質等の組成を誘電率画像上に高精度に配置する様にする。こうしたアルゴリズムを開発するために、画像情報処理用の解析ソフトであるMatlabとそのImage processing Toolboxを使用する予定である。
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