研究実績の概要 |
平成29年度は受精非依存的に胚珠が肥大するキメラリプレッサーを複数単離し、これらにおいて機能的な胚乳が発生しているかを多角的に評価した。機能的な胚乳は胚を養育する能力と、種皮発生を誘導する能力を併せ持つことが知られている。我々はまず、未受精での種皮の発達を確認するため、3種の胚珠肥大キメラリプレッサー(Pro35S:ESP1aSRDX, Pro35S:ESP2SRDX, Pro35S:ESP3SRDX)の未受精胚珠のバニリン染色を行った。バニリン染色は、種皮の発達に伴って蓄積するプロアントシアニジンを赤色に呈色する。Pro35S:ESP1aSRDX, Pro35S:ESP2SRDX, Pro35S:ESP3SRDX)の未受精胚珠はいずれも赤色の呈色を示し、未受精でのプロアントシアニジンの蓄積が検出され、未受精で種皮の発生が明らかとなった。 次に我々は、各胚珠肥大キメラリプレッサー植物体の詳細な解析を行うため、ライン化を試みた。胚珠肥大の表現型が強い胚珠肥大キメラリプレッサー植物体においては稔性が低下する傾向があったが、ProESP1a:ESP1aSRDX, Pro35S:ESP3SRDXについて良好なラインを得ることに成功した。 そこで次に、胚を養育する能力を評価するために、胚珠肥大キメラリプレッサーラインを母体とし、精核が一つしかできないkokopelli変異体花粉を交配して、Single fertilization実験を行った。その結果、野生型を母個体とした場合に単独で受精した胚は球状型で発生を停止するのに対して、ProESP1a:ESP1aSRDX, もしくはPro35S:ESP3SRDXを母個体とした場合に単独で受精した胚は初期心臓型胚まで生育しうることがわかった。これらの結果から、キメラリプレッサーによって肥大した胚乳が、胚養育能力を有していることが示された。
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