被子植物は ‘重複受精’と呼ばれる独特の受精様式を進化の過程で獲得している。重複受精では精細胞と卵細胞および精細胞と中央細胞の、2種類の雌雄配偶子ペア間の受精が行われる。受精した卵細胞は胚に、中央細胞は胚乳に発達して種子ができる。重複受精システムを基盤として、被子植物は種の存続だけでなく莫大な数の新種を創成してきた。2種類の受精ペアの確立は重複受精の成否を左右する重要な制御ステップである。近年の重複受精ライブイメージング研究では、雌雄配偶子の挙動と2つの配偶子ペア確立との関連性が見出されているが、制御因子についての知見はまだない。本研究では、新規重複受精因子の候補であるLGM1(以下、DMP9)の解析を行った。申請者の研究室ではシロイヌナズナDMP9が精細胞の細胞膜に特異的に局在し、かつDMP9発現抑制体において卵細胞に特異的な受精阻害が起こることを見出した。さらに、DMP9が減少して卵細胞の受精が阻害されても、精細胞は卵細胞に接着していることを証明した。この結果は卵細胞のみがDMP9を介して精細胞との接着を認識し、その結果2種類の雌雄配偶子ペアの確立を誘導する制御機構の存在を示唆した。本研究ではさらにDMP9発現をnullとしたDMP9欠損株を作出した。また、分子機能が全く不明であるDMP9タンパク質についてトポロジーと機能領域の解析を行い、両末端が細胞質側に配向していることを明らかにした。今後はこれの成果を足がかりに更なる関連分子や雌性側の相互作用因子の探索と機能追究を行う研究展開を進めており、最終的に重複受精を成立させるための、雌雄配偶子相互作用を担う「鍵と鍵穴」の原理に迫る。
|