研究領域 | 植物新種誕生の原理―生殖過程の鍵と鍵穴の分子実態解明を通じて― |
研究課題/領域番号 |
17H05839
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
多喜 正泰 名古屋大学, 物質科学国際研究センター(WPI), 特任准教授 (70378850)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 有機蛍光色素 / 蛍光イメージング / 花粉管 / 細胞壁 / 光ケージド化合物 / 近赤外蛍光 |
研究実績の概要 |
(1) 任意の一本の花粉管を選択的に染色する光ケージド赤色発光色素の開発 光ケージド蛍光分子は,光照射した部位のみを蛍光染色できる色素である。赤色発光を示す蛍光分子PFに対して光分解性の官能基を連結させることにより,光ケージド分子NB-PF1を合成し,花粉管染色を試みた。培地にNB-PF1のアセトキシメチル(AM)エステル体を添加し,任意の花粉管に405 nmのレーザー光を照射したが,有意な蛍光シグナル増大は認められなかった。一方,花粉管を臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB)で処理した場合は,同様の操作により蛍光染色することができたことから,NB-PF1の細胞膜透過性が低いことが原因として挙げられる。この課題は,植物細胞に対する細胞膜透過ペプチドを探索することにより解決できるものと考えられ,共同研究を実施している段階である。 (2) 植物深部の細胞壁染色を指向した近赤外蛍光性を有する細胞壁染色剤の開発 近赤外蛍光色素PREX 710は712 nmと740 nmにそれぞれ極大吸収波長と極大蛍光波長を有する。したがって,クロロフィルが励起されない波長で,PREX 710のみを選択的に励起できることが励起できることがわかった。次にPREX 710に対してアルギニンのオリゴマー (R8) を連結したものを合成し,ヒメツリガネゴケの原糸体の染色を行った。720/13および785/62の励起,蛍光フィルターを用いたところ,細胞壁のみから蛍光シグナルが観測された。一方,640/30と690/50のフィルターセットを用いた場合ではクロロフィル由来の自家蛍光のみを検出することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた赤色発光を示す光ケージド化合物の合成に成功し,溶液中では目的の機能を示すことを確認できたが,植物が生きたままの状態で花粉管を染色することはできなかった。動物細胞を用いた場合では光ケージド化合物として機能し,単一細胞の選択的ラベル化が達成されたことから,課題は明白であり,植物細胞に対する細胞膜透過性を高めるような分子設計が必要である。また,もう1つの課題である細胞壁染色に関しては,ほぼ当初の予定通りに進行し,ヒメツリガネゴケの原糸体およびシロイヌナズナの根を用いてその有用性を評価することができた。本研究成果については論文執筆段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
細胞壁染色では,前年度に引き続きPREX 710を用いたイメージングを実施する。まず,二光子顕微鏡を用いて,植物深部の細胞壁イメージングを行い,限界到達深度を決定する。近赤外発光に加え,PREX 710の大きな特徴の一つが高い光安定性である。二光子イメージングと合わせることにより,高い時空間分解能による細胞壁動態の長時間イメージングを実現していく。一方,本手法による細胞壁染色は,細胞壁とアルギニンとの静電相互作用を利用したものであり,任意の細胞のみを特異的に可視化することができない。また,色素の解離によるシグナル喪失も予想される。そこで,光を用いて共有結合可能な新たな細胞壁染色剤を開発する。この場合,光を当てた部分の細胞のみで化学反応が進行し,色素と細胞壁の間で化学結合が形成される。この新たなシステムの開発と実証を進め,植物イメージング研究の基盤技術としての確立を目指す。また,花粉管染色に関しては,現在,植物細胞の細胞膜透過ペプチドを探索中である。ペプチド配列によって,細胞膜透過性の程度や細胞選択性が制御できれば,植物研究における強力なツールとなる。
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