陸上植物における生殖細胞分化の鍵メカニズムの解明

2017 年度 実績報告書

• 研究領域: 植物新種誕生の原理―生殖過程の鍵と鍵穴の分子実態解明を通じて―
• 研究課題/領域番号: 17H05841
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 山岡 尚平 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (00378770)
• 研究期間 (年度): 2017-04-01 – 2019-03-31
• キーワード: 生殖細胞 / 配偶子形成 / 転写因子 / 陸上植物 / ゼニゴケ / bHLH

研究実績の概要

本研究では、苔類ゼニゴケから同定されたbHLH転写因子BONOBO(BNB)が陸上植物に共通した生殖細胞分化の鍵因子であることを示し、BNBを介した生殖細胞分化の制御メカニズムとその進化について解明を目指す。今年度の成果は以下の通りである。
(1) シロイヌナズナBNBの機能の解明と生殖細胞分化メカニズムの進化的保存性の検証：シロイヌナズナにはBNBオルソログが3遺伝子あり、BNB1、BNB2、BNB-LIKE (BNL)と名付けた。bnb1 bnb2二重変異をもつ花粉は、精細胞を形成しなかった。その発生では、減数分裂後の小胞子の非対称分裂は正常であったが、雄原細胞の分化が起こらなかった。GFP-BNB2は花粉発生の2細胞期初期に一過的に蓄積した。したがって、BNB1/BNB2は冗長的に雄原細胞分化に必要であることが示された。MpBNBはbnb1 bnb2変異を相補したことから、BNBの機能は基部植物と被子植物で部分的に保存されていることが示された。一方、今回得たbnl変異は、単独およびbnb1 bnb2との多重変異では雌雄配偶子形成に全く影響しなかった。被子植物では、BNBの機能は雄側では保存されているが、雌性配偶子形成には別のメカニズムが必要であることが示唆された。以上を今回論文発表した(Yamaoka et al. Curr. Biol. 2018)。
(2) BNB相互作用因子の同定・機能解析：最近別グループにより、BNB1/BNB2と同様に精細胞形成に必要なbHLH遺伝子が同定されており、BNBのパートナーの有力候補として検証している。
(3) BNBの「鍵穴」となる標的・下流因子の同定・機能解析：トランスクリプトーム解析で得たMpBNBの標的候補の転写因子が、ゼニゴケの性分化を制御していた(論文準備中)。BNBの「鍵穴」として雌性配偶子形成に関わると考えられる。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

今年度は当初の課題であった陸上植物の生殖細胞分化の鍵因子であるBNBについて、シロイヌナズナでの機能解析の結果を得て、論文発表することができた。またBNBの相互作用因子候補を見出すことができ、BNBの標的遺伝子についても複数の候補を得ることができた。さらにゼニゴケの性分化に関わる遺伝子の機能解析も進めることができた。以上のように多くの成果を上げることができたが、一方で、BNB標的候補遺伝子の機能解析については、当初予定していた解析を進めることができなかったものもあり、これらについて今後進めていく必要がある。

今後の研究の推進方策

(1)BNBのパートナーの有力な候補遺伝子について、タンパク質の相互作用の検証と生理・発生における機能の解析を行う。(2)ゼニゴケの性分化に関わる遺伝子について解析を進め、論文発表を目指す。(3)CDFのゼニゴケ・ホモログによるMpBNB発現制御について検証する。(4) BNBの標的・下流因子の機能解析を進める。

研究成果

• [雑誌論文] Generative Cell Specification Requires Transcription Factors Evolutionarily Conserved in Land Plants (2018)
  • 著者名/発表者名: Yamaoka S, Nishihama R, Yoshitake Y, Ishida S, Inoue K, Saito M, Okahashi K, Bao H, Nishida H, Yamaguchi K, Shigenobu S, Ishizaki K, Yamato KT, Kohchi T.
  • 雑誌名: Current Biology 巻: 28 ページ: 479~486.e5
  • DOI: 10.1016/j.cub.2017.12.053
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Insights into Land Plant Evolution Garnered from the Marchantia polymorpha Genome (2017)
  • 著者名/発表者名: Bowman JL, Kohchi T, Yamato KT, Jenkins J, Shu S, Ishizaki K, Yamaoka S, Nishihama R, Nakamura Y, Berger F, et al.
  • 雑誌名: Cell 巻: 171 ページ: 287~304.e15
  • DOI: 10.1016/j.cell.2017.09.030
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
• [学会発表] 転写因子BONOBOは陸上植物の生殖系列細胞の分化に必要である (2018)
  • 著者名/発表者名: 山岡尚平, 西浜 竜一, 吉竹良洋, 石田咲子, 井上佳祐, 齊藤美咲, 岡橋啓太郎, 包昊南, 西田 浩之, 山口勝司, 重信秀治, 石崎公庸, 大 和勝幸, 河内孝之
  • 学会等名: 第59回日本植物生理学会年会
• [学会発表] ゼニゴケ・ゲノムにおける植物ホルモン生合成・シグナル伝達系遺伝子 (2018)
  • 著者名/発表者名: 山岡尚平, 西浜竜一, 石崎公庸, 大和勝幸, 河内孝之
  • 学会等名: 日本農芸化学会2017年度大会
• [学会発表] Gibberellin-independent functional conservation of DELLA protein in the basal land plant Marchantia polymorpha (2018)
  • 著者名/発表者名: Rui Sun, 井上佳祐, 楠竜之介, 山岡尚平, 西浜竜一, 河内孝之
  • 学会等名: 第59回日本植物生理学会年会
• [学会発表] 苔類ゼニゴケ再生過程におけるMpESRの機能解析 (2018)
  • 著者名/発表者名: 石田咲子, 山岡尚平, 山口勝司, 重信秀治, 小嶋美紀子, 竹林裕美子, 榊原均, 河内孝之, 西浜竜一
  • 学会等名: 第59回日本植物生理学会年会
• [学会発表] Exploring the physiological functions of gibberellin (GA)-related diterpenes in the liverwort Marchantia polymorpha (2018)
  • 著者名/発表者名: Rui Sun, 井上佳祐, 楠竜之介, 山岡尚平, 西浜竜一, 河内孝之
  • 学会等名: 日本農芸化学会2017年度大会
• [学会発表] 枝状突起を形成する新奇ゼニゴケ変異体eda1の解析 (2018)
  • 著者名/発表者名: 毛利遊野，大谷健人，山岡尚平，西浜竜一，河内孝之，高橋卓，本瀬宏康
  • 学会等名: 第59回日本植物生理学会年会
• [学会発表] Marpolbase: ゼニゴケゲノムデータベースの構築 (2018)
  • 著者名/発表者名: 望月孝子，谷澤靖洋，長崎英樹，山岡尚平，西浜竜一，金澤建彦，上田貴志，大和勝幸，河内孝之， 中村保一
  • 学会等名: 第59回日本植物生理学会年会
• [学会発表] BONOBOs Are Evolutionarily Conserved Transcription Factors for Germ Cell Fate Determination in Land Plants (2017)
  • 著者名/発表者名: Shohei Yamaoka, Ryuichi Nishihama, Yoshihiro Yoshitake, Sakiko Ishida, Keisuke Inoue, Misaki Saito, Keitaro Okahashi, Haonan Bao, Hiroyuki Nishida, Katsushi Yamaguchi, Shuji Shigenobu, Kimitsune Ishizaki, Katsuyuki T. Yamato, Takayuki Kohchi
  • 学会等名: The 65th NIBB Conference Renaissance of Marchantia polymorpha ‐the genome and beyond‐
  • 国際学会
• [学会発表] The transcription factor BONOBO controls sexual organ development in the basal land plant Marchantia polymorpha(基部陸上植 物ゼニゴケにおいて転写因子 BONOBO は生殖器官形成を統御する) (2017)
  • 著者名/発表者名: Shohei Yamaoka, Keisuke Inoue, Ryuichi Nishihama, Katsushi Yamaguchi, Shuji Shigenobu, Kimitsune Ishizaki, Katsuyuki T. Yamato, Takayuki Kohchi
  • 学会等名: 50th Annual Meeting of the Japanese Society of Developmental Biologists
• [学会発表] The sole auxin receptor gene MpTIR1 is dispensable for cell survival but required for development in the liverwort Marchantia polymorpha (2017)
  • 著者名/発表者名: 鈴木秀政, 加藤大貴, 山岡尚平, 西浜 竜一、河内 孝之
  • 学会等名: 日本農芸化学会2017年度大会
• [学会発表] The sole auxin receptor gene MpTIR1 is dispensable for cell survival but required for development in the liverwort Marchantia polymorpha (2017)
  • 著者名/発表者名: Hidemasa Suzuki, Hirotaka Kato, Shohei Yamaoka, Ryuichi Nishihama, Takayuki Kohchi
  • 学会等名: The 65th NIBB Conference Renaissance of Marchantia polymorpha ‐the genome and beyond‐
  • 国際学会
• [学会発表] A long non-coding RNA module for sex differentiation in the liverwort Marchantia polymorpha (2017)
  • 著者名/発表者名: Keitaro Okahashi, Tetsuya Hisanaga, Shohei Yamaoka, Ryuichi Nishihama, Keiji Nakajima, Takayuki Kohchi
  • 学会等名: The 65th NIBB Conference Renaissance of Marchantia polymorpha ‐the genome and beyond‐
  • 国際学会
• [学会発表] Tissue regeneration is associated with temporal changes in the levels of auxin and gene expression in Marchantia polymorpha (2017)
  • 著者名/発表者名: Sakiko Ishida, Shohei Yamaoka, Mikiko Kojima, Yumiko Takebayashi, Hitoshi Sakakibara, Katsushi Yamaguchi, Shuji Shigenobu, Takayuki Kohchi and Ryuichi Nishihama
  • 学会等名: The 65th NIBB Conference Renaissance of Marchantia polymorpha ‐the genome and beyond‐
  • 国際学会
• [学会発表] Ancient functions and regulation of the Marchantia polymorpha protein DELLA before recruited to gibberellin signaling in land plant evolution (2017)
  • 著者名/発表者名: Rui Sun, 井上佳祐, 楠竜之介, 山岡尚平, 西浜竜一, 河内孝之
  • 学会等名: The 65th NIBB Conference Renaissance of Marchantia polymorpha ‐the genome and beyond‐
  • 国際学会
• [学会発表] MpFGMYBはゼニゴケの雌性分化を制御する (2017)
  • 著者名/発表者名: 久永 哲也, 岡橋 啓太郎, 山岡 尚平, 西浜 竜一, 郷 達明, 河内 孝之, 中島 敬二
  • 学会等名: 日本植物学会第81回大会
• [学会発表] ノンコーディングRNAを介したゼニゴケの性分化制御 (2017)
  • 著者名/発表者名: 岡橋 啓太郎, 久永 哲也, 山岡 尚平, 西浜 竜一, 中島 敬二, 河内 孝之
  • 学会等名: 日本植物学会第81回大会
• [学会発表] 核オーキシンシグナリングによるゼニゴケ幹細胞機能調節 (2017)
  • 著者名/発表者名: 鈴木 秀政, 加藤 大貴, 片山 みなみ, 灰庭 瑛実, 山岡 尚平, 西浜 竜一, 河内 孝之
  • 学会等名: 日本植物学会第81回大会
• [図書] 京大発!フロンティア生命科学 第12章 形づくりの不思議 動物・植物の発生 12.2節 植物の発生 (2018)
  • 著者名/発表者名: 山岡尚平
  • 総ページ数: 333
  • 出版者: 講談社
• [図書] 京大発!フロンティア生命科学 第13章 体を守るしくみ 動物と植物の生体防御機構 13.2節 植物の 病害抵抗性の分子機構 (2018)
  • 著者名/発表者名: 山岡尚平
  • 総ページ数: 333
  • 出版者: 講談社
• [備考] 植物の生殖細胞をつくる鍵因子を発見-花粉の精細胞をつくる仕組みは花の咲かないコケ植物に起源があった-
  • URL: http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2017/180126_1.html
• [備考] 植物の生殖細胞をつくる鍵因子を発見
  • URL: http://www.nibb.ac.jp/analyins/jp/?p=4723
• [備考] 京都大学、植物の生殖細胞をつくる鍵因子を発見
  • URL: https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/release/18/01/29/04986/