研究領域 | 植物新種誕生の原理―生殖過程の鍵と鍵穴の分子実態解明を通じて― |
研究課題/領域番号 |
17H05842
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
宅見 薫雄 神戸大学, 農学研究科, 教授 (50249166)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生殖隔離 / 異質倍数性進化 / ゲノム解析 / 種間交雑 |
研究実績の概要 |
高等植物では異質倍数性進化が新たな種の成立において重要な原動力となっているが、2つの異なる近縁種間の雑種形成がそのスタートとして重要であり、発芽可能な交雑種子の形成は必須である。コムギ・エギロプス属は種間交雑と異質倍数性進化によって過去に何度も新種を誕生させてきた。しかし、近縁種のゲノムは2倍体レベルで分化しており、全ての交雑組み合わせで自由に雑種が作出できるわけではない。二粒系コムギに近縁4倍種を交雑した場合、交雑種子が正常に形成されるかどうかのレベルで顕著な生殖隔離が認められ、このことがいくつかの近縁4倍体種がパンコムギの親になれなかった理由だと考えられる。本研究では、二粒系コムギと近縁4倍種の交雑に着目し、交雑種子形成の成否を決める要因をトランスクリプトームの比較解析と発現プロファイルのパターン解析から解明することを目的としている。 平成29年度は、二粒系コムギ品種に4倍体エギロプス6種の花粉を交雑し、各種の交雑種子形成能を評価したところ、得られた交雑種子が無胚になる4倍性エギロプス系統が特定の種に偏在した。このような無胚の交雑種子形成は、種間雑種の形成阻害に結びつく生殖隔離の1つとして捉えることができる。無胚の交雑種子はアリューロン層の形成不全が認められ、種子形成時に起こる様々な事象が正常種子形成よりも遅れていると思われた。いくつかの交雑組み合わせで、交雑後の種子からRNAを抽出し、順次BrAD-seq法によるライブラリーを作成してシークエンシングに供試している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、二粒系コムギ品種Langdon (Ldn)に4倍体エギロプス6種から136系統の花粉を交雑し、各種の交雑種子形成能を評価した。得られた交雑種子が無胚になる4倍性エギロプス系統が特定の種に偏在することが明らかになった。交雑種子の断面の走査型電子顕微鏡観察により、有胚の交雑種子ではアリューロン層が正常に分化発生しているのに対し、無胚の交雑種子はアリューロン層の形成不全が認められた2種類の交雑種子(Ldn/Ae. cylindricaとLdn/Ae. variabilis)について受粉後の日にちを追って交雑種子から質の高いRNAを抽出した。Ldn/Ae. cylindricaとLdn/Ae. variabilisのいずれについても2系統の4倍体エギロプスを花粉親に用いた。Ldn/Ae. cylindricaの交雑ではいずれの系統でもできる交雑種子は無胚となる。しかし、Ldn/Ae. variabilisの交雑に関しては、一方は有胚となり、もう一方は無胚となる。交雑親系統を合わせてこれらのRNAサンプルからBreath Adapter Directional sequencing (BrAD-seq)法でライブラリーを3反復で計90作成した。さらに、Langdon, Ae. cylindrica, Ae. variabilisについて受粉後の日にちを追って種子から質の高いRNAを抽出し、MiSeqで300bp両側読みのRNA sequencingを行った。BrAD-seqライブラリーについてはHiSeq4000で解析を行っている。パンコムギやタルホコムギではリファレンスゲノム情報が今年度公開されたが、パンコムギの祖先とならなかった近縁2倍体種から得たRNA-seqデータを解析するにあたって、このゲノム情報の有効性を検証し、効果的に利用できることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、HiSeq4000によるBrAD-seqライブラリーのシークエンシングを終える。次に、Langdon, Ae. cylindrica, Ae. variabilisのMiSeqデータから、それぞれに関してde novo assemblyで転写産物のunigene配列セットを構築し、これをHiSeqデータに対する参照とする。これらについては昨年公開されたパンコムギの参照ゲノム配列ver1.0を利用して、同祖染色体上の位置やアノテーション情報を得る。種間の種子での遺伝子発現パターンの違い等について情報を得る。その上で、90ライブラリーのshort readをMiSeq由来の転写産物参照配列にマッピングして、各遺伝子の転写量を推定して、両親間で発現量が顕著に異なる遺伝子セットを抽出する。 抽出した遺伝子セットについて、SNP情報に基づいて、両親の何に由来する転写産物の発現量が異常になっているのかを推定する。両親の何に由来するのかが異常な転写量につながっている場合、SNPに対して制限酵素処理を行うことによって両親の遺伝子をゲル上で区別できるようにして、RT-PCR-RFLP解析を行う。
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