公募研究
本研究の目的は、生殖器官の形成過程における転写因子とエピジェネティック因子複合体の作用機構の解析を通して、時空間特異性の制御機構を理解することである。これまでに花発生過程において、幹細胞の増殖停止に機能する転写因子の複合体に着目し、それらのターゲット遺伝子の選択性を解析してきた。CRABS CLAW (CRC)遺伝子は花発生中期の雌しべ外側領域においてオーキシンのホメオスタシスにかかわるTORNEDO2遺伝子の発現を抑制することで、花幹細胞の増殖抑制に機能していることを報告した(Nature Comm 2017)。さらに、CRCはオーキシン合成酵素YUUCCA (YUC)も直接制御しており、その作用機構の解析を進めている。また、別の転写因子であるSUPERMANは花発生初期において、花幹細胞群を取り囲むように発現している。SUPタンパク質は、ポリコム因子であるFIEと直接結合して、YUC遺伝子発現抑制をおこなっている事を示した(EMBO J. in press)。これらの結果は、時空間特異的に発現する転写因子によって制御されるオーキシンのシグナル系の調節が花幹細胞の増殖制御に重要であることを示している。今後は、温度や日長などの環境因子によってそれぞれの遺伝子発現がどのように影響を受けるのかを解析し、変動環境下においても一定の決まった表現型をもたらす可塑性と頑強性の作用機序の解明も目指す。さらに本研究は花幹細胞の増殖制御にかかわる遺伝子発現の時空間性の解明により、種分化に至る遺伝子発現制御の一端を解き明かすことを目指していく。
1: 当初の計画以上に進展している
CRCによるTRN2の制御を介した幹細胞の増殖抑制機構についての論文は、高品質な重要論文をオープンアクセスで掲載する学際的ジャーナルであるNature Communicationsにて発表した。さらに、SUPによるエピジェネティック制御を介した幹細胞の増殖抑制は、分子生物学のトップジャーナルのひとつであるEMBO Journalに受理され、in pressである。さらにKNUとWUSとのエピジェネティックをかいした制御機構にかんしては、論文を投稿中である。
(1) 花幹細胞の増殖抑制に機能する2つのZinc Finger タンパク質KNUとSUPによるPcGのリクルート機構、および転写抑制における時間軸に沿った作用機序の解析をすすめる。KNUおよびSUPの誘導系を用いたターゲット遺伝子の転写量の変化とH3K27me3抑制的マークを含むヒストン修飾、クロマチン構造の時間的変化を比較解析することで、転写抑制の開始とサイレンス状態の維持機構の解析を進める。これまでにKNUはPcGのFERTILIZATION-INDEPENDENT ENDOSPERM (FIE)タンパク質と直接結合しており、SUPは CURLY LEAF(CLF)と直接結合することを示してきた。領域内では、宮川班との共同研究として、Zinc Fingerタンパク質とPcG複合体の立体構造解析を進めることで、PcG複合体のターゲット遺伝子へのリクルート機構の基本原理の理解を進める。 (2) 花幹細胞の決定因子の直接的な抑制にかかわるKNU遺伝子が温度や日長環境変動によってどのように影響を受けるのかの環境可塑性を解析する。同時に、変動環境下において、分化マーカー遺伝子の発現および表現型も観察することで、増殖と分化のバランスを保ち、花器官の数を一定に保つための環境頑強性の機能解析を進める。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件、 招待講演 10件) 備考 (1件)
Plant Reproduction
巻: 31 ページ: 89-105
10.1007/s00497-017-0315-0
Frontiers in Plant Science, Plant Biotechnology
巻: 印刷中 ページ: -
EMBO Journal
巻: - ページ: -
10.15252/embj.201797499
Methods in Molecular Biology
Nature Communications
10.1038/s41467-017-01252-6
化学と生物
巻: 55 ページ: 602-610
http://bsw3.naist.jp/ito/