被子植物の種子形成は、花粉管から放出された2つの精細胞が種子の前駆組織である胚珠へと届けられ、その内部にある卵細胞と中央細胞を重複受精させることで始まる。このとき、卵細胞と中央細胞の間には精細胞を受け入れるための、いわば受精領域とよぶべき場が一過的に出現をするが、現在までに受精領域の役割はほとんど明らかになっていない。われわれは、受精領域がつくられる前の卵細胞と中央細胞の間の連続電子顕微鏡像をFIB-SEMで取得し、180 nm間隔で選択した66枚の画像の三次元像を構築して卵細胞を覆うパッチ状の細胞壁構造の存在を示した。平成30年度ではピッチの密度を90 nmにした計132枚のトレース画像から三次元構築を行い、パッチ状構造の細部の形態をより滑らかに表現することができた。このパッチ状の細胞外構造は卵細胞から特異的に分泌される蛍光タンパク質を用いることで、共焦点顕微鏡によっても観察することができる。そこで卵細胞の分泌を阻害することで、このパッチ状構造の形成も止めることができるのではないかと考えた。この仮説を調べるため、平成30年度ではCOPII小胞形成に必須のSAR1の優性欠損変異体を卵細胞特異的に発現するpEC1.1::SAR1 H74L形質転換体を作製した。この植物では卵細胞から発現する分泌型蛍光タンパク質のシグナルが細胞外領域に局在しなかったことから、未受精胚珠でパッチ状の細胞外領域を欠損している可能性が示唆された。この形質転換体の雌しべに精細胞マーカーラインの花粉を授粉したところ、精細胞は受精領域へと到達せず、受精に失敗することがわかった。したがって、卵細胞の分泌活動が細胞外領域の形成に必須であること、そして、そのパッチ状構造が精細胞放出時における受精領域の瞬間的な形成において、重要な役割をはたすことが示唆された。
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