研究実績の概要 |
減数分裂には、減数分裂染色体の相同性認識と相同組み換え、対合などの様々な「鍵と鍵穴」が存在する。例えば、野生種のもつ有用な遺伝子を栽培種に導入する場合、一般的には種間雑種を作り、戻し交雑により新しい品種をつくる。しかし実際には、多くの組み合わせで雑種が不稔になる。その原因のひとつに、染色体構造の分化がある。減数分裂では、両親に由来する一対の相同染色体が対合し、新たな遺伝子組合せが子に伝達されるが、染色体構造の差異が大きい種間雑種では、しばしば互いが相同と認識されず、減数分裂が異常になる。つまり種間雑種では、減数分裂における「鍵と鍵穴」の掛け違いが頻繁に起こっているといえる。 本研究では、主に栽培イネとアフリカ野生イネとのF1雑種(SP雑種)の減数分裂で生じる染色体対合不全をモデルケースとして、減数分裂隔離に関する研究を行う。減数分裂隔離のメカニズムが解明できれば、野生種のもつ農業上有用な遺伝子の育種利用が進むと期待される。 今年度は、減数分裂周辺の3つの異なる時期(減数分裂前、減数分裂初期、減数分裂後期)のSP雑種の葯からRNAを抽出し、次世代シーケンスによるmRNAおよびsmall RNAの大規模解読を行なった。その結果、雑種では、栽培イネ側あるいは野生イネ側の遺伝子が優先的に転写される遺伝子(種間アレル発現量バイアス遺伝子)が合計1,295個検出された。特に減数分裂への移行期にバイアスを示す遺伝子に注目したところ、減数分裂との関連から興味深い9つを見出し、allele-specific expression Bias in SP hybrids(BSP1~9)と名付けた。そのうちBSP1遺伝子は、雑種の両親である栽培イネおよび野生イネでは、減数分裂後期に発現上昇するが、雑種では減数分裂初期の染色体認識が行われる時期に高発現していた。相同性認識の観点から非常に興味深い。
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