研究領域 | 植物新種誕生の原理―生殖過程の鍵と鍵穴の分子実態解明を通じて― |
研究課題/領域番号 |
17H05851
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
川勝 泰二 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 主任研究員 (30435614)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イネ / 胚乳 / エピゲノム |
研究実績の概要 |
本研究では、胚乳における貯蔵物質蓄積を制御する「鍵と鍵穴」現象を明らかにし、胚乳における生殖隔離機構を理解することを目的とする。具体的には、種子成熟と関連するエピゲノムダイナミクスの解明を目指す。 (1) 胚乳、胚、幼苗におけるエピゲノムダイナミクスの解明:遺伝子発現は、転写因子、DNAメチル化、小分子RNA、ヒストン修飾の相互作用、すなわち「鍵と鍵穴」現象によって制御される。胚乳における貯蔵物質蓄積を制御するエピゲノムダイナミクスと生殖隔離機構を理解するために、開花後5、7、12日の胚と胚乳をサンプリングした。現在トランスクリプトーム、小分子RNAトランスクリプトーム、DNAメチロームのNGS解析を実施し、イネ胚乳特異的なDNAメチル化パターンと遺伝子発現の関連を明らかにした。 (2) 種子サンプルのChIP-seqライブラリー調整の条件検討:胚と似た形質を持つカルス、開花後10日の胚、胚乳を用いて条件検討を行い、胚10個や胚乳からChIP-seqに供試する断片化クロマチンを得られるようになった。 (3) 生殖過程後期におけるエピゲノムリプログラミングの分子メカニズム解明:胚発生ではCHHメチル化が誘導されて休眠中の完熟種子は非常に強くCHHメチル化を受けているが、発芽によりCHHメチル化が一気に解除されることを明らかにした。胚発生におけるアクティブなCHHメチル化は小分子RNAに依存したRdDM経路とヘテロクロマチン構築に関わるDDM1-CMT2経路に依存していること、一方で発芽におけるメチル化の解除は細胞分裂に依存した受動的な脱メチル化が原因であることを明らかにした。DNAメチル化の変化は、休眠中は発現していないが発芽によって発現が誘導される遺伝子の近傍に多く、DNAメチル化によって発芽に関係する遺伝子発現が制御されている可能性を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
イネ胚乳のエピゲノム解析は予定通りに進捗し、特徴あるエピゲノムを同定することができた。ChIP-seqの条件検討もできた。シロイヌナズナの種子成熟におけるエピゲノムリプログラミングを明らかにし、論文として発表した。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 胚乳、胚、幼苗におけるエピゲノムダイナミクスの解明では、ChIP-seqによって複数のヒストン修飾パターン動態を解明する。トランスクリプトーム、DNAメチローム、小分子RNAトランスクリプトーム、ヒストン修飾パターンを統合し、遺伝子発現の組織特異性や発現レベルと、各エピゲノムレイヤーの相関を調べることにより、エピゲノムダイナミクスを「鍵」と種子成熟を「鍵穴」とする制御機構を解明する。(2) 生殖隔離に関わる遺伝子群の同定では、PRC2によって制御され、生殖隔離に関わる遺伝子群を同定するために、PRC2構成因子変異体のトランスクリプトーム解析、DNAメチローム解析を行う。PRC2構成因子変異体で発現上昇しており、野生型でH3K27me3にマークされている遺伝子はPRC2に制御される遺伝子であり、異種ゲノム間生殖隔離に関わる可能性がある。Gene Ontology解析によりこれらの遺伝子にどのような機能を持つ遺伝子が多く含まれているのか、特徴的なエピゲノムレイヤーの組合せが存在するのか、についても解析する。
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