研究領域 | 認知的インタラクションデザイン学:意思疎通のモデル論的理解と人工物設計への応用 |
研究課題/領域番号 |
17H05862
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山本 真也 京都大学, 高等研究院, 准教授 (40585767)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 同調 / 社会適応 / 他者理解 / 類人猿 / 伴侶動物 / 共感 / 人馬一体 / 比較認知科学 |
研究実績の概要 |
同調と社会適応にかんして、ウマ・イヌを対象に実験をおこなった。他者の行動に同調することは、協力行動をおこなう上でも非常に重要な基盤となる。ウマでは、ヒト-ウマという異種間での行動同調に着目し、乗馬時の動きの解析をおこなった。画像解析技術を用いて分析し、「人馬一体」がどのような状態であるのか、客観的な数値を使って表すことに成功した。ウマの動きに少し遅れてヒトが動くことが、「人馬一体」という同調現象の特徴であることを明らかにした。完全同調でなく、時間差のある同調という点が興味深い。また、この同調が起こったとき・起こらなかった時のウマ・ヒト双方の生理反応を心拍計を用いて計測することができた。ヒトにたいしては、事後アンケートによって乗馬時の心地よさといった主観評価データも収集している。これらのデータを分析することにより、同調行動が異種間の絆を生む生理メカニズムにアプローチできると考えられる。 イヌについては、同種間の選択同調の実験をおこなった。他者の選択に引きずられるという現象は、ヒトでは親しい間柄でよく見られ、協力のみならず文化形成の重要な基盤と考えられている。イヌを対象に実験をおこなったところ、イヌでも一部この傾向がみられることがわかった。オスよりもメス、あまり遊ばない個体よりもよく他個体と遊ぶ個体でこの傾向が強く見られた。 ボノボ・チンパンジーを対象にも観察・実験をおこない、同調と社会適応にかんして、行動指標と生理指標を組み合わせた研究の基盤を整えた。今後の発展に向けて装置・プログラムの開発を進めている。 これらの成果を、査読付き英文学術雑誌に2編、和文学術雑誌に1編、にまとめて発表した。また、英文学術本を編集しOxford University Press より出版した。章の分担執筆としても2編執筆し貢献した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウマ・イヌでの比較実験という新境地の開拓にも着手することができた。こちらも順調に研究を軌道に乗せることに成功し、すでに研究成果を学会発表できるレベルにまで結実させている。世界初の試みであるウマでのアイトラッカーの実験などは現時点ではまだ準備段階だが、今後の進展が大いに期待できる。これにより、これまでに類人猿2種(チンパンジー・ボノボ)に加え、伴侶動物2種での比較、さらには類人猿と伴侶動物の比較という新たな次元の比較が可能になる。 サーモグラフィーを用いた顔面温度の計測、アイトラッカーを用いた視線・瞳孔反応の計測、およびKINECTを用いた身体動作の検出といった新しい実験手法をボノボ・チンパンジー研究に導入した。実験手法の有効性が明らかになり、今後の発展が大きく見込まれる。 ボノボの研究にかんしては、Oxford University Pressから英文学術書を出版することができた(米国Duke大学のBrian Hare博士との共同編集)。ボノボの認知に関する世界でも最初の学術書である。野外研究と実験研究の両方を盛り込んでいるという点でも、きわめてユニークな学術書になっていると自負している。 上記学術本の出版のほか、学術論文にかんしては、学術本分担執筆も含めて2017年度に英文学術論文を4本、和文学術論文を1本公表することができた。現在も3本の論文を執筆中である。全体として、研究計画通り順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画を変更しなければならないような問題点はとくになく、これまでの研究方針を継続させる。ボノボ・チンパンジーでの同調行動の研究は、最先端技術・機器の調整・プログラムの作成などがカギになってくるが、現在進行中の他研究チームとの共同研究を進めることで解決したい。これまでの研究方針に沿ったデータの蓄積を進めると同時に、ウマでのアイトラッカー研究など、新たな試みにも果敢に挑戦したい。また、野生ウマ・野良犬集団を対象に収集している集団行動についても、同新学術領域の他研究チーム(奈良先端科学技術大学院大学 池田和司教授ら)と共同で取り組んでいる解析をさらに進めたい。 平成30年度は新たに大学院生3名の参画があり、研究体制がより整う。社会的関係の密な伴侶動物と進化の隣人、それぞれ2種ずつを比較するという世界でも唯一といえる研究を推進したい。 2018年度は、本研究課題の最終年度として、論文執筆にこれまで以上に注力する。現在執筆中の3本の論文の公表を早期に目指すとともに、本プロジェクトの成果をまとめた総説論文も含め、新たな論文執筆にもとりかかりたい。
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