チンパンジー・ボノボ・ウマ・イヌを対象に、自然環境下での観察と飼育下での実験をおこなった。 野生ウマの研究では、30群以上からなる250個体以上を対象に、ドローンによる個体・集団位置および集団行動の記録に成功した。個体間・集団間距離およびソーシャルネットワークの分析から、地域集団に重層社会がみられることが示された。集団内においてはハーレムオスが集団の外側に位置すること、集団間においては大きな集団ほど中心部を占めること、などが明らかとなった。また、動きの分析からは、集団がまとまるメカニズムに2つのフェーズがあることが示唆された。これらの研究はすでに1本の英文学術論文として公表され、2本が現在投稿中である。 台湾でおこなった野犬の研究では、20頭以上の個体にGPSを装着し、集団の形成・個体間の動きの同調などを分析した。祖先種であるオオカミに比べ、柔軟かつ寛容な集団を築いていること、社会関係と行動同調に関連がみられることなどが示唆された。 飼育下では、ウマ-ウマ、イヌ-イヌといった同種間のみならず、ウマ-ヒトという異種間での行動同調および選択同調について検討した。乗馬時の「人馬一体」について詳細な画像解析から客観的かつ定量的な指標をもって記述することに成功し、同調がヒト・ウマの心理におよぼす影響を評価した。英文学術時論文として現在投稿中である。 また、チンパンジー・ボノボ・ウマ・イヌすべてにおいてオキシトシンの投与・計測パラダイムの構築に成功した。これまでの行動観察・認知実験の結果を生理メカニズムの観点からも考察できるようになり、今後の研究の発展につながる基盤を整えた。 本年度は、査読付き英文学術雑誌2本、英文著書分担執筆3本、和書分担執筆1本、その他一般向けの著作物2本の公表(印刷中含む)以外に、10回の招待講演など、プロジェクト最終年度としてアウトリーチ活動も積極的におこなった。
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