研究領域 | 動的構造生命科学を拓く新発想測定技術-タンパク質が動作する姿を活写する- |
研究課題/領域番号 |
17H05869
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中林 孝和 東北大学, 薬学研究科, 教授 (30311195)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 細胞内環境 / タンパク質 / 紫外共鳴ラマン / 分子クラウディング / 細胞内の水 / ラマンイメージング / SOD1 |
研究実績の概要 |
(1) 細胞内への目的タンパク質の導入法として,細胞質の交換を行うリシール法を検討した.本年度は,細胞内に蛍光色素および蛍光タンパク質を導入することに成功した.またアルキン基が修飾された核酸塩基をリシール法で細胞内に導入し.可視ラマンではあるが.細胞内のアルキンのラマンバンドの測定に成功した.細胞死の割合が高いなどの問題はあるが,細胞内への目的タンパク質の導入に有効である.目的タンパク質として,最小のタンパク質であるシニョリンについて検討を行い,シニョリンの合成と基本的なスペクトル情報を得た.また同様に細胞内導入を考えているSOD1およびアタキシンについて,緩衝溶液中での紫外共鳴ラマンスペクトルの測定を行った. (2) 細胞内環境によるタンパク質の構造変化について,細胞内環境を理解するパラメーターとして「細胞内の水の密度」を提案した.細胞内は生体分子が高濃度で存在し,分子クラウディングと呼ばれている.我々は細胞内の水の密度が分子クラウディングを示すパラメータになりえると考え,細胞内の水のO-H伸縮振動のラマンバンドの強度から,細胞内の水の定量を行った.イメージング測定より,核の方が細胞質よりも水のO-H伸縮振動のバンド強度が大きく,核の方が細胞質よりも水の密度が高い,つまり生体分子の濃度が低く,クラウディング効果が小さいことを示した.細胞内環境による構造変化について,細胞内の水から検討することができる. (3) ALSの発症との関連が指摘されているSOD1について,細胞内環境とSOD1の毒性(変性による凝集と酸化作用)との関係を検討した.PEGを用いた細胞内模倣環境でのSOD1の物性を検討し,変性に伴う凝集能と酸化促進性が緩衝溶液中よりも短時間で得られることがわかった.この結果は細胞内環境がSOD1の毒性を促進することを示唆する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リシール法の技術を習得し,リシール法によって導入した分子のラマンスペクトルの測定まで成功した.また細胞内環境の一つである分子クラウディングを表す物理量として「細胞内の水」を提案した.細胞内のタンパク質の構造・機能変化と分子クラウディング効果との相関を検討することができる.また,SOD1が細胞内模倣環境では毒性が促進されることを示すことができた.
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今後の研究の推進方策 |
リシール法によって細胞内にシニョリンなどの様々なタンパク質を導入し,紫外共鳴ラマン測定を行い緩衝溶液中とのスペクトルの比較を行う.細胞内pHの変化や電場効果など細胞内環境を変化させた測定および細胞依存性を検討する.SOD1の毒性が細胞内模倣環境下で促進されることを示すことができた.そのため,実際にリシール法で細胞内にSOD1を導入し,細胞内での変性の速度と変性構造を調べる.また現有の顕微鏡に紫外レーザー光を導入し,顕微鏡下での測定を検討する.
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