(1) 細胞内への目的タンパク質の導入を行うリシール法について、今まで用いてきたストレプトリジンOではなく、リステリオリシンO によるリシールによる導入を行った。導入効率は低くなるが、細胞死の割合は減少し、色素修飾されたシニョリンタンパク質の導入を確認した。細胞内においてシニョリンと他のタンパク質を区別するために、シニョリンのトリプトファン残基をD化したシニョリンの合成を現在行っており、導入と紫外共鳴ラマンスペクトルの測定を検討している。 (2) 緩衝溶液内のシニョリンの分子クラウディング効果について、229 nmを励起光とする紫外共鳴ラマンスペクトルから検討した。トリプトファン残基の共鳴ラマンバンドについて、クラウディング剤の導入による系統的な強度増加が観測された。吸収およびCDスペクトルのクラウディング効果から、分子クラウディングによって構造変化が生じ、トリプトファン残基と他残基との相互作用が増加したことが原因であることが示唆された。 (3) 細胞のラマンバンドから、細胞内の分子クラウディングの量を反映する生体分子の濃度を定量できることを提案している。本年度は、ナノ秒パルス電場の印加による細胞内の生体分子の濃度について検討した。高電場の印加によって生体分子の濃度が減少するのに対し、低電場の印加では、生体分子の濃度が増加することがわかった。これらは電場印加によって水の流出入が生じ、体積変化が生じていることが原因である。細胞のラマンバンドから細胞の体積変化量を見積もれることがわかった。
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