本研究では、細胞内で形成されるタンパク質結晶を用いた外来タンパク質、ペプチドの構造解析手法の開発を目指した。平成30年度は、多角体結晶を用い、多角体のループ構造を外来タンパク質に置換した結晶の合成と構造解析を試みた。 具体的には、ポリへドリンモノマーのL1領域をカルモジュリン由来金属結合性ペプチドで置換した融合タンパク質を作成し、細胞内結晶化を試みた。昆虫細胞Sf21で融合タンパク質を発現すると結晶が観察された。MALDI TOF MS測定では、L1ループがカルモジュリン由来の金属結合ペプチドに置換された分子量をとっており、設計通りにペプチドの挿入に成功した。また、SEM測定では、野生型と異なる形態をしていることがわかった。SPring8のBL32XUで構造回析を行なった結果、融合結晶の回折像が得られ、ペプチドを導入しても結晶性をもっていることがわかった。構造回析の結果、導入したペプチド全長の電子密度は、ディスオーダーのため、観測されなかったものの、3残基のアミノ酸の電子密度が観察され、今後、ペプチド周辺の分子設計を行うことにより、構造観察が可能となる変異体を作成する。また、平成29年度に作成した、アミノ酸欠損変異体にSfGFPを内包した結晶の構造回析実験を行なったところ、回折像がえられ、SfGFPを結晶内部に内包しても結晶性を維持していることがわかった。以上の結果より、タンパク質やペプチドを内包した多角体は、結晶性を維持していることが示され、今後、これらの構造解析が可能になると考えられる。
|