研究領域 | 動的構造生命科学を拓く新発想測定技術-タンパク質が動作する姿を活写する- |
研究課題/領域番号 |
17H05877
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
宮ノ入 洋平 大阪大学, たんぱく質研究所, 准教授 (80547521)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | NMR / 蛋白質動態 / 蛋白質複合体 / 安定同位体 / 立体構造 |
研究実績の概要 |
本課題は、独自に開発を進めてきた安定同位体標識技術を駆使して、80-1000 kDaの高分子量蛋白質複合体の動態構造を解析する手法を確立することを目指している。 平成29年度は、核緩和最適化SAILアミノ酸をGroES 7mer、GroEL 14merならびにGroES-GroEL複合体に導入し、NMR測定を進めた。GroESおよびGroELに関しては、芳香環や脂肪族CHシグナルを高感度に観測することが出来たが、GroES-GroEL複合体では、一部のシグナルしか観測することが出来なかった。これは複合体形成に伴い、分子量が増大したことに加え、複合体において複数の構造間を揺らいだ状態にあることが示唆された。NMR測定において、測定温度や圧力の条件検討を試みたが、NMRスペクトルの大幅な改善には至らなかった。そこで、従来の緩和最適化SAILアミノ酸に更なる改良を加えることにした。従来法ではCH間の相関シグナルを観測するため、観測対象とする芳香環やメチル基等に位置特異的に13Cと1H標識を導入していた。この場合、直接結合する13C-1H間では相互に核緩和の影響が反映されるため、分子量増大や化学交換過程の影響が反映され、シグナルの感度低下につながってしまう。そこで、観測対象を13Cもしくは1Hのみに制限し、核緩和過程を極限まで排除した新たなSAILアミノ酸を設計した。この新型SAILアミノ酸を分子量10 - 82 kDaの様々な蛋白質に導入しNMR測定を行った。その結果、従来の核緩和SAILアミノ酸を利用したNMR測定を比較して、短時間で非常に高感度かつ先鋭的なNMRシグナルを観測することに成功した。今後は、新型SAILアミノ酸をGroEL, GroESに導入してNMR測定を進め、GroES-GroEL複合体でのNMRシグナルの測定を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来の核緩和最適化SAILアミノ酸を利用することで、当初の計画通りGroESおよびGroELのNMR信号を高感度に観測帰属することに成功してきた。一方で、GroES-GroEL複合体では、一部のシグナルしか観測することが出来ず、動態変化等の解析を行うことは困難であった。このことは課題計画の段階で、ある程度想定できていたが、温度変化等の条件検討を行っても改善することが出来ず、問題解決には時間を要した。しかしながら、新型SAILアミノ酸の設計が順調に進み、モデル蛋白質へ導入した結果、想定以上にNMRシグナルの高感度化が達成できていることが見いだされた。すでに新型SAILアミノ酸のGroEL, GroESへの導入も進めており、複合体における高分解能・高感度な動態解析法の確立が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず新型SAILアミノ酸を利用して、GroES-GroEL複合体形成に伴う動態変化の解析を進める。シグナルの帰属に関しては、従来の緩和最適化SAILアミノ酸で得られたデータも活用しつつ、残基内および残基間NOE情報を駆使して進めていく。新型SAILアミノ酸を利用する場合は、試料溶液も含め、バックグラウンドを高純度に重水素化する必要がある。このため、無細胞合成系を利用した試料調製や効率的なNMR測定法についても最適化を行う予定である。一方、新型SAILアミノ酸によるNMRシグナルの高感度化は想定以上であったため、様々な蛋白質に適用していく。特に高圧・極低温下での動態解析や蛋白質の繊維化形成機構の解析にも応用する。
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