研究実績の概要 |
本課題では、独自に開発を進めてきた安定同位体標識技術を駆使して、80-1000 kDaの高分子量蛋白質複合体の動態構造を解析する手法を確立することを目指している。 平成30年度は、まず、核緩和過程を極限まで排除した新型SAILアミノ酸をGroEL, GroESおよびGroES-GroEL複合体に導入するため、安定同位体標識パターンの最適化を行った。特に芳香族アミノ酸の芳香環および脂肪族水素を立体特異的かつ高感度に観測するためフェニルアラニン、チロシンおよびヒスチジンを対象とした。さらに、ロイシンやバリンのメチル基水素についても最適化を行った。例えば、フェニルアラニンのδ位とβ3位の水素のみを検出する場合、対象外の水素はすべて重水素に置換した。それらアミノ酸を分子量82kDaのMSG蛋白質に導入してNMR測定を行ったところ、芳香環および脂肪族水素の1次元スペクトルを短時間で非常に高感度に観測することに成功した。また2次元NMR測定を行うことで、芳香環水素と脂肪族水素間のNOE信号も高感度に観測することが出来た。このことから各NMR信号の帰属も可能となった。ロイシンやバリンのメチル水素に関しては、高感度観測が可能となったが、信号同士の縮重が多く、1次元スペクトルのみでは、信号帰属は困難となることが判明した。 これら結果を踏まえ、新型SAILアミノ酸をGroES, GroELおよびGroEs-GroE複合体に導入した。その結果、各試料についてPhe残基δ位及びζ位の水素を高感度に観測することに成功した。従来の13C-1H相関信号は、低温度下では広幅化してしまい、観測が困難であったが、本手法では、低温状態でも高感度な信号を観測することが可能となり、巨大蛋白質複合体を対象として芳香環回転運動の解析も可能となった。 今後は、縦緩和時間を短縮した高感度かつ高速測定技術の開発が必要となる。
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