研究領域 | 動的構造生命科学を拓く新発想測定技術-タンパク質が動作する姿を活写する- |
研究課題/領域番号 |
17H05878
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
永田 崇 京都大学, エネルギー理工学研究所, 准教授 (10415250)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | APOBEC / in-cell NMR / AFM |
研究実績の概要 |
抗HIV-1因子であるAPOBEC3G(A3G)は一本鎖DNA特異的シトシン脱アミノ化酵素である。今年度は、標的とするCCC配列(三番目のCがUに変換される)をA3Gが見つけ出す際に、DNA鎖間を飛び移るいわゆる鎖間移動を経由する機構があることを見出し、論文発表した(Phys Chem Chem Phys, 2018)。38ヌクレオチド長の両端近くに一つずつCCC配列を配した基質DNAとCCC配列を含まないポリA配列DNAを競合DNAとして異なる比率で混合した試料を作製し、A3Gによる脱アミノ化反応を実時間NMR計測により観測した。解析の結果、競合DNAの濃度上昇に伴ってA3Gの反応効率は上昇し、基質DNA:競合DNA=~1:5で極大値を示した後は反応効率が減少して行くことが明らかとなった。一方で、競合DNAの濃度上昇に伴ってA3Gのスライディング効果(3’→5’極性により検出)は単調に減少して行った。鎖間移動は、複数のDNA結合ドメインを有する転写因子などで、これまで見出されてきた。今回特筆すべきことは、A3Gの脱アミノ化ドメイン一つだけでも鎖間移動が有効に利用されることを見出したことである。 A3Gが一本鎖DNA(ssDNA)をスライディングや鎖間移動する姿を高速AFMで観察することを試みてきた。まず、種々の要請を満足するために、ssDNAをDNAオリガミに固定することを提案していた。今年度は調製方法の検討を行い、DNAオリガミに固定化されたssDNAについて、質の高い像を高速AFMにより得ることに成功した。さらに、そこにA3Gを加え、高速AFMにより観察するための条件検討をはじめるに至った。 ヒト培養細胞に導入した核酸のin-cell NMRスペクトルを世界に先駆けて得ることに成功し論文発表した(Phys Chem Chem Phys, 2018)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、標的とするCCC配列(三番目のCがUに変換される)をA3Gが見つけ出す際に、DNA鎖間を飛び移るいわゆる鎖間移動(intersegmental transfer)を経由する機構があることをNMR実時間計測法により見出し、論文発表した(Kanba et al, Phys Chem Chem Phys, 2018)。 A3Gが一本鎖DNA(ssDNA)をスライディングや鎖間移動する姿を高速AFMで観察することを試みてきた。種々の要請(スライディングの方向を知りたい、ssDNAの動きを抑えたいなど)を満足するために、ssDNAをDNAオリガミに固定することを提案していた。これまで調製効率が低いという問題があったが、調製方法の検討を行った結果、十分な量のDNAオリガミに固定化されたssDNAを得ることに成功し、質の高い高速AFM像を得た。目下、A3Gを加え、高速AFMにより観察するための条件検討をはじめたところである。 これまでにヒトの培養細胞にDNAやRNAを導入してNMRスペクトルを得ることに成功していたが、さらにデータを取得することにより論文として発表することが出来た(Yamaoki, Phys Chem Chem Phys, 2018)。また、核酸の運動性や構造変化に関する情報を取得するために、NMR測定法の整備を行った。現在、長時間の測定での生細胞の死亡率を下げるためにバイオリアクターの改良を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
高速AFMによるA3Gのスライディング及び鎖間移動の観察について、今年度得られた知見に基づいて観測条件の改良を重ねていき、種々の疑問を明らかにする。 in-cell NMRについては、バイオリアクターを導入して細胞の死亡率を下げると共に、長時間の測定を可能にする。また、核酸の運動性や構造変化に関する情報の取得を行う。
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