公募研究
細胞質中で合成されたタンパク質が正しい立体構造を獲得し機能を発揮するまでには、多くの細胞内因子と連続的に相互作用をすると考えられているが、生きた細胞内のタンパク質成熟体の過程を調べる簡便な方法は存在していなかった。これまで我々は、生細胞内で光反応性のアミノ酸アナログpBPAを部位特異的に導入可能な株を用い、この株に直接UVを照射することで、pBPAに近接する因子との架橋を形成させる手法「部位特異的in vivo光架橋法」を用いて、タンパク質間相互作用を解析してきた。この手法は、アミノ酸残基レベルの高い空間分解能を持つものの、架橋を形成するのに数分以上のUV照射が必要であり、時間分解能はそれほど高くなかった。そこで、種々のUV照射装置を検討した結果、僅か1秒でこれまでの装置と同程度の架橋を形成できる超強力UV照射装置を見い出した。この機器の利用により、高い時間分解能を持つpulse-chase実験と部位特異的in vivo光架橋法を組み合わせたPiXie法(pulse-chase and X-linking experiment)を開発した。この実験手法を用いて、ペリプラズム中に存在する可溶性の因子PhoAの二量体形成速度, 内膜タンパク質複合体SecD/Fの会合速度と分子内folding速度、外膜タンパク質LptD/E複合体の会合速度と成熟化過程を解析し、本実験手法の有用性を示した。以上の結果を論文として取りまとめ報告した。
2: おおむね順調に進展している
生きた細胞内での新生タンパク質の動態解析を可能とするPiXIeを開発し、これを論文として取りまとめJBC誌に報告した。この論文の中で、本手法は、可溶性タンパク質の相互作用だけでなく、膜タンパク質複合体の会合並びに、同一分子内のfolding過程も解析可能であることを示した。よって、本手法は「in vivo生化学」の新しい研究手法として広く利用される可能性がある。架橋が形成されない場合には、相互作用の評価ができないという欠点は持ち合わせてはいるものの、生細胞内で実際に起こっている相互作用の変化を調べる画期的な方法と言え、本研究課題である「in vivo活写する」を実現するための有力な研究手法を確立したと考えており、概ね順調に推移していると思われる。
PiXie法が、新規に合成されたペプチド鎖の成熟過程を追跡できるかどうかを検証する目的で、合成の途上で翻訳が安定に停止するVemPを対象に解析を進める。VemPは159残基からなる分泌タンパク質であり、C末端の20アミノ酸残基は、翻訳停止に重要な役割を持つ。そこで、C末端の20アミノ酸残基を除く全てアミノ酸をpBPAに改変した変異体を作成し、PiXie解析を行うことで、合成開始から、翻訳停止、膜透過の各々のステップで生じる相互作用を網羅的に解析する。得られた架橋産物中の相手因子は、候補因子に対する特異的抗体を用いたimmino blottingや、精製後に質量分析することにより同定する。本、研究の推進により、本主砲の有用性がさらに明らかにできるものと期待している。すでに予備的な実験を進めており、幾つかの部位で特異的な架橋を形成することを見出している。これらを材料に架橋産物の精製系を確立し、架橋相手の同定を進める予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)
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