タンパク質の機能発現機構の解明には『機能発現に伴う分子構造変化』を様々な時空間分解能でとらえることが重要である。 本課題では、スピンラベルESRは微細なコンフォメーション変化を0.1 nm 単位で、赤外分光計測は反応に関連する官能基の局所的な化学構造情報を0.001 nmという高空間分解能で得ることができる。これら二つの分光法を分子拡散を基礎としたマイクロ流路ミキサーとを組み合わせることによって、反応の時間分解計測が可能な、汎用性の高い装置を構築した。装置の組み立てと性能評価を行った上で、タンパク質の立体構造形成、複合体形成に伴う構造変化や、機能部位の電子構造・プロトン化状態、そして化学反応の時間変化の解析を行った。加えて、タンパク質の立体構造形成反応および膜タンパク質の反応への応用を目指し、スピンラベル標識試料の調製法を確立した。 (1) 時間分解SL-ESR測定法の確立: 新たに設計をした分子拡散型ミキサーを用いて、100 μs~数十秒までの広い 時間幅の中で反応を停止させることのできる系を構築した。ESR測定用の試料はSL標識する必要がある。タンパク質立体構造研究のためにはモデルタンパク質として4本のヘリックスから構成されるACBP、および、トランスポーターのダイナミクス研究のために膜タンパク質であり、ヘムを輸送基質とするBhuUV-Tについて、距離測定に適したアミノ酸残基を選び、部位特異的変異導入法によりシステインに変異させ、MTSSLという標識試薬によって部位特異的に標識を行った。 (2) 時間分解IR測定用マイクロ流路ミキサーの作製: 化学エッチング処理を行ったステンレススペーサーを2枚のフッ化カルシウム板で挟むことでマイクロ流路を構築し、SPring-8 BL43IRの赤外放射光を用いた顕微鏡に設置し、鉄の還元反応を追跡し、時間分解計測が可能であることを示した。
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