研究領域 | 動的構造生命科学を拓く新発想測定技術-タンパク質が動作する姿を活写する- |
研究課題/領域番号 |
17H05887
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
伊藤 隆 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (80261147)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | in-cell NMR / 蛋白質の立体構造 / 蛋白質のフォールディング / 蛋白質の動的平衡 / 分子クラウディング |
研究実績の概要 |
細胞内の分子クラウディング環境が蛋白質の様々な動態に与える影響が注目されている.In-cell NMRを用いたこれまでの国内外の研究によって,細胞内環境や,これを人工的に模したクラウディング環境における蛋白質の酵素活性,動態,フォールディング不安定化,動的平衡などに対する影響は次第に明らかになりつつあるものの,統一的・普遍的な理解にはまだ至っていない.本研究では,生きた細胞内の蛋白質の動態を原子分解能で解析できる現存する唯一の手法である「in-cell NMR」に注目し,その手法をさらに発展させることで,細胞内蛋白質の立体構造,安定性および動的平衡状態の詳細な解析を可能にする.また,応用研究として,ヒト培養細胞を用いた薬剤スクリーニングの系の検証も行う計画である. H29年度は,まずショウジョウバエDRK蛋白質やヒトGRB2蛋白質などのアダプター蛋白質と総称されるマルチドメイン蛋白質群をモデルとして,希薄溶液状態,人工クラウディング環境,細胞内環境での立体構造,安定性および動的平衡状態の解析を進めた.また,ヒト培養細胞や昆虫培養細胞を用いた「生理的条件下の」in-cell NMR解析を可能にする,新しいバイオリアクターシステムの開発とその応用研究も展開した.さらに,少ない距離拘束条件から正しい立体構造を算出するためのベイズ推定を用いた立体構造解析手法を確立し,真核細胞内としては世界初となる高分解能蛋白質立体構造解析に成功した. In-cell NMRの創薬科学への応用研究としては,ヒトHRas蛋白質とRaf-1 RBDの相互作用の系をモデルとして,細胞内の蛋白質間相互作用の詳細な解析を試みた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞質内蛋白質の立体構造,安定性および動的平衡状態の解析については,ショウジョウバエDRK蛋白質やヒトGRB2蛋白質などのマルチドメイン・アダプター蛋白質群をモデル試料として,全長蛋白質および各ドメイン単独の状態における蛋白質フォールディング安定性の解析を進めた.また,培養真核細胞を用いたin-cell NMR解析に資する,様々な要素技術の開発も行い,ゲルによる固定化を要しない「簡便な」新しいバイオリアクターシステムの開発や,真核細胞内蛋白質の詳細な立体構造解析を可能にするベイズ推定を用いた計算科学的手法の開発などを行った. ヒト培養細胞を用いたin-cell NMRの創薬科学への応用基盤技術の構築については,ヒトHRas蛋白質とRaf-1 RBDの相互作用の系をモデル試料として,in-cell NMR測定条件の検討を進めた. 以上のことから,H29年度に計画していた研究の多くについては当初の計画に従って推移しており,また本新学術領域内の他の研究者の研究にも利用できる技術(バイオリアクターシステム,ベイズ推定を用いた立体構造計算法)の開発にも成功していることから,本研究は全体としておおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
H30年度は,計画の修正を適宜行いつつ前年度の研究を継続し,(1) 細胞質内蛋白質の立体構造,安定性および動的平衡状態の解析,(2) ヒト培養細胞を用いたin-cell NMRの創薬科学への応用基盤技術の構築,を進める. (1)については,標的蛋白質に特異的に相互作用する因子による,細胞内のフォールディング安定性に対する影響も解析する.また,本研究領域内の共同研究を通じて,H29年度に開発したin-cell NMR解析技術の他の試料に対する適用も積極的に行う.(2)については,細胞内導入方法,安定同位体標識法などの要素技術の最適化を進め,従来の希薄溶液中での実験よりも付加価値の高いスクリーニングが可能であることを実証していく.
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