研究領域 | 動的構造生命科学を拓く新発想測定技術-タンパク質が動作する姿を活写する- |
研究課題/領域番号 |
17H05888
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
三島 正規 首都大学東京, 理工学研究科, 准教授 (70346310)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | NMR / マルチドメインタンパク質 / SAXS / 常磁性効果 / vinculin |
研究実績の概要 |
マルチドメインタンパク質は、しばしば各ドメインが柔軟なリンカーで繋がった構造でフレキシブルであるため、結晶化が容易でなく、X線結晶構造解析が適用できないことも多い。そこで溶液状態で構造解析が可能なNMRを主に用いて、動的な状態も含めた構造解析を行うことを目的にしている。 (1)ドメイン間の距離情報を取得するため、常磁性効果を用いたNMR解析が必要である。そこでRNA結合タンパク質Nrd1の安定同位体ラベルしたRRM1-2ドメインと、スピンラベルを導入する部分であるRRM3-4ドメインを連結させた。現在までに高活性型のsortaseを用いた反応で約30%程度の収率で連結した生成物を得ることに成功している。スピンラベルについては、常磁性金属を配位させたDOTA-M8を導入した試料の調製に成功している。 (2)さらに1000残基以上の巨大なタンパク質であるvincluinについて、Nrd1同様に、各ドメインに分割してドメイン選択的にラベルした後、それぞれを連結するアプローチを試みた。これにより、巨大タンパク質でも、より容易に動的構造情報が得ることを意図している。現在までに、vincluinをN末端約750残基とC末端約250残基の重水素化体を作成し、それぞれNMR測定に成功している。これら、vinculinの分割された部分どうしを高活性型のsortaseを用いて、良い収率で連結することにも成功しており、連結前と連結後ではNMRスペクトルに変化が起こることの確認にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究における重要なステップであるドメインどうしの連結について、高活性型のsortaseを導入することにより良い結果を得ている(論文作成中)。また距離情報の取得のためのスピンラベル導入についても着実に進んでいる。各種の試料においてNMR測定にも成功していることから、基本的には、試料調製やデータ収集に成功しているということができる。これらの解析においてやや遅れがあるものの、全体的には、おおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
従来のNMR測定法の単純な適用では、分子量等の問題により解析が困難であるので、タンパク質の重水素化とメチルTROSYを用いて先鋭化させたNMR信号をプローブに、スピンラベルからのPREを観測することで、立体構造情報を取得する。マルチドメインタンパク質のドメイン配置に関する情報として、常磁性の情報以外にもRDCがあり、静電気的相互作用を塩の添加によりチューニングした試料を用いて配向試料を作成し、RDCを観測する。またSAXS測定から、全体構造の知見を得る。Nrd1のリン酸化体についてはPmk1 MAPキナーゼの恒常活性型変異体との共発現により測定試料を調製する。また、研究協力者のSattlerらの計算手法を用いて、構造計算を行う。Vinculinについては、自己阻害からの活性化型への構造変化は、PIP2による自己阻害の解除や、talinの結合によるものなど様々な説があるので、メチオニンをプローブに、これらの添加による構造変化を検証する。またNrd1と同様にSAXSによる全体構造の変化の確認を行う。メチオニン信号から、自己阻害状態においても、マイナーポピュレーションの活性化型が含まれるような動的平衡が存在しないのかについても検証する。もし存在する場合、温度変化や、緩和解析により平衡状態に関するパラメータに関して定量的な解析を行い、活性化機構との関連を議論する。
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