本課題では、溶液中の蛋白質機能発現過程での分子及び溶媒和ダイナミクスを探る研究を行っている。これまで、グルタミン酸脱水素酵素のドメイン運動を結晶構造解析と分子動力学計算によって明らかにしてきた。前年度に引き続き、より多数の電子顕微鏡画像データを追加して、実験的にドメイン運動の準安定状態を探った。その結果、運動が制限される結晶構造解析では観察できない溶液中での構造多形を見出した。さらに、分子動力学計算結果と照合したところ、観察された各準安定状態が、分子動力学計算で現れる構造揺らぎの範囲内にあるものの、その出現頻度は大きく異なっていた。この結果は、200 ns程度の分子動力学計算では、分子運動の位相空間を十分にサンプリングできないことを意味する。これらの成果をまとめて、現在、論文投稿中である。 溶液中蛋白質分子の構造変化を調べるために、植物の赤色光受容蛋白質フィトクロムBの全長試料について、排除体積クロマトグラフィーとX線小角散乱を組み合わせた測定を行った。赤色光吸収型の分子形状モデルをこれまでに開発した解析方法で明らかにし、類縁蛋白質フィトクロムAとの構造差異も明らかにした。また、赤色光照射下で、赤色光吸収型と近赤外光吸収型の混合状態についても測定し、生理活性を有する近赤外光吸収型が光科学的に非特異的凝集を生じることを明らかにした。この光依存的凝集は、近赤外光吸収型が他の蛋白質と相互作用する際に有利に働き、生理活性を生じるのではないかと推察した。この成果についても、現在、論文投稿中である。 前年度に時間分解蛍光和周波測定で得られたダイナミック・ストークス・シフトのデータを、分子動力学計算によって解釈することを試み、蛋白質表面に生じる集団的な水和双極子が、トリプトファンの電子状態緩和に寄与することを明らかにした。この結果は、論文としてまとめて投稿し、現在、改訂中である。
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