研究領域 | 動的構造生命科学を拓く新発想測定技術-タンパク質が動作する姿を活写する- |
研究課題/領域番号 |
17H05895
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
井手 隆広 国立研究開発法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, 研究員 (40777801)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ダイニン / FRET / ノックインマウス / ES細胞 |
研究実績の概要 |
本研究では、繊毛の原動力となるモータータンパク質(ダイニン)のアミノ酸配列中に2種類の蛍光タンパク質VenusとmCherryを挿入し、1分子内FRETによりダイニンの活性化・非活性化状態を立体構造変化として可視化することを目指している。そのために蛍光タンパク質を挿入したダイニンを持つノックインマウスを作製し、マウス初期胚に存在するノード繊毛内で、ダイニンがどのようなパターンで活性化するかを観察することを目標としている。 平成29年度は主にES細胞を用いてノックインマウスの作製を行った。蛍光タンパク質を挿入するのは、ノード繊毛で発現・機能しているダイニン重鎖DNAH11 (accession# AF183144)で、先行研究を参考に蛍光タンパク質の挿入位置を決定した。挿入部位の間はおよそ100kbpで同時に挿入することは難しいので、まずVenusをES細胞に対する遺伝子ターゲッティングで43番エキソンの目的の位置に挿入した(※)。続いて、Venusを挿入したES細胞に対しCRISPR-Cas9システムでmCherryを18番エキソンに挿入した。CRISPR-Cas9システムは、遺伝子ターゲティングよりも早くノックインマウスを得られるためmCherryは、2つの位置の作製に成功した。 加えて蛍光タンパク質が挿入されたダイニンが機能的であるかどうかを検討するために、ES細胞からマウスを作成した。この操作には3~4カ月ほど必要なため、まずVenusのみを持つES細胞(※)を用いてキメラマウスを作製し、次世代からノックインマウスを得ることに成功した。機能性については、ノード繊毛の運動に強く相関している左右軸の異常で評価した。Venus挿入DNAH11遺伝子のホモ接合型は左右逆位のノックインマウスが得られなかったため、Venusが挿入されたDNAH11は機能を維持していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度予定していた2つの蛍光タンパク質が挿入されたDNAH11を持つノックインマウスの作製は達成できた。しかしながら、予定ではこのノックインマウス(DNAH11-Venus+mCherry)を用いて観察を始めている時期であるが産仔数が少なく、ノード繊毛を観察するために必要なメスマウスの確保に時間がかかっている。観察系については、Venusのみが挿入されたノックインマウス(DNAH11-Venus)のノード・気管を用いて観察しているが蛍光が弱く、現在種々の条件で観察を行い安定的にシグナルが得られる条件を探している。加えて、mCherryのみを持つノックインマウスの作製も行っており、DNAH11-Venusと同様に機能性の評価を行う予定である。DNAH11には、点変異により活性が失われた変異体DNAH11-ivが知られている。DNAH11-Venusの機能性をより詳しく評価するために、DNA11-VenusとDNAH-ivのヘテロ接合型(DNAH11-Venus/iv)を作製して左右軸を観察したところ、左右逆位のマウスが得られた。DNAH11-iv/WTの左右軸は正常であることから、DNAH11-Venusは、機能は維持しているものの野生型ほどの活性がないことが分かった。1つの挿入で活性が低下しているので、2つの蛍光タンパク質を挿入した場合には、活性がさらに低下する恐れが考えられるため、異なる場所への挿入が必要になる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、すでに得られたDNAH11-Venus+mCherryを用いた観察と、より機能性を維持しているダイニンの作製と観察に注力する。DNAH11-Venus+mCherryのノックインマウスは1~2カ月程度で実験を行うために十分な数が揃うと考えられ、機能性(左右軸・ノード繊毛の運動)・蛍光強度について、それぞれ解析可能であるかどうかの評価を行っていく。特に蛍光観察については、いくつかの顕微鏡システムを検討してシグナルが得られる条件を探す予定である。DNAH11-Venusが野生型ほどの活性が確認できなかったため、Venusの挿入位置については今後いくつかの挿入場所を検討する必要があると考えている。同時に、mCherryだけを挿入したDNAH11 (DNAH11-mCherry) については機能性と蛍光を評価し、より機能性が高く蛍光強度が高いものを選択する。mCherryの挿入に用いたCRISPR-Cas9による挿入は、Venusを挿入するときに用いた遺伝子ターゲティングよりも速いスピードでノックインマウスの作製が可能である。しかしながら、現在の機能性チェックはES細胞からマウスを作製するプロセスが入っており、この手法では複数の挿入位置を同時に評価するために長い時間がかかってしまう。そこで、ES細胞から直接気管繊毛を生やすなど、迅速なスクリーニング系の確立が必要になると考えられる。
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