鞭毛・繊毛の周期的な屈曲運動は、軸糸内で9本の周辺微小管の間に配列したダイニン分子のうち、逆側にあるダイニンが交互に活性化することによって起こると考えられているが、その制御のしくみは明らかでない。本研究では、軸糸外腕ダイニン、微小管、架橋構造のみから成るモデル系を作成し、この系が振動的な運動を起こすかどうかを調べるとともに、運動中のダイニンの構造を電子顕微鏡で解析することを目指した。 クラミドモナス鞭毛から抽出した軸糸外腕ダイニン分子を微小管に結合させ、2本の微小管の間にダイニンが一列に並んだ複合体を作成した。電子顕微鏡観察では、2本の微小管を架橋するダイニンに2種類の向きが観察されたが、これらは逆向きに力を発生することが予想された。この複合体をCaged ATP光分解によって活性化し、複合体の運動と力発生をin vitro運動測定および光ピンセット法で確認した。ATP放出により、複合体から微小管が滑り出し、複合体が解離することが確認された。 続いて、この複合体の微小管同士を架橋する構造として、長さ約80 nmの棒状のDNA折り紙構造体を作成し、変異体キネシンを介して微小管に結合させた。電子顕微鏡および蛍光顕微鏡観察は、複合体の解離がDNA折り紙架橋によって抑制されることを示した。ATPの光放出によって活性化した複合体は、振幅50 nm程度の自律振動的な往復運動を示した。運動の速度、ステップなどの解析は、この双方向運動がダイニンの能動的な力発生によることを示した。往復運動は、2本の微小管のそれぞれに結合したダイニンが逆向きに力を発生し、その力発生が交互に起こることによって生じると考えられる。この結果は、鞭毛・繊毛運動の根幹であるダイニンの活性化スイッチングが、ダイニン、微小管、架橋構造のみから成る単純な系で起こることを示唆する。
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