研究領域 | 脳内身体表現の変容機構の理解と制御 |
研究課題/領域番号 |
17H05915
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研究機関 | 畿央大学 |
研究代表者 |
森岡 周 畿央大学, 健康科学部, 教授 (20388903)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脳卒中 / 運動障害 / 運動主体感 / 多感覚統合 / 片麻痺 |
研究実績の概要 |
運動主体感は複数の感覚情報を比較照合する多感覚統合機能によって起こる主観的体験である.我々は27名の脳卒中後片麻痺患者の多感覚統合機能を映像遅延装置による視覚フィードバック遅延検出課題を用いて定量的に評価し,片麻痺肢では視覚-深部感覚,視覚-自動運動の間における時間遅延の検出が困難となっていることを確認した.つまり,運動主体感の基盤となる多感覚統合機能が,脳卒中患者で歪んでいることを心理物理的に明らかにできた.本研究では,脳卒中患者の運動主体感を直接的には計測していなかったため,我々は運動主体感をAgency attribution taskを用いて,脳卒中患者の運動主体感の変容を調査し,それが運動麻痺の回復を決定づけるのかを縦断的に調査することを計画した.現在ではAgency attribution taskを健常者58名に実施するとともに,運動主体感と多感覚統合機能との間に有意な相関関係があることを確認している.これは多感覚統合機能が歪んでいる脳卒中患者が運動主体感も同様に変容している可能性を示唆している基礎的データであるため,今後は実際に脳卒中片麻痺患者にAgency attribution taskを実施する予定である.一方,運動主体感が運動麻痺の回復に影響を与えるのか否かを調査する前段階としての基礎研究も実施した.実際,Intentional-binding taskと運動学習課題を混合させた課題を考案し,運動主体感の生起が健常者の運動学習に良い影響を与えることを明らかにすることができた.運動麻痺の回復と運動学習のプロセスが類似していることから,本結果は,脳卒中片麻痺患者の運動麻痺の回復には,運動主体感の生起が重要であることを示唆するものである.そのため,今後は実際に脳卒中患者の運動主体感と運動麻痺の回復との関係を縦断的に調査するとともに,運動主体感を高めるようなニューロリハビリテーションを開発・検証する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳卒中片麻痺の運動主体感が運動麻痺に与える影響を調査するための縦断研究は,2017年度に計画していたが,健常者データの収集・分析のみの実施となった.これは,健常者で用いたプロトコルを,疲労の生じやすい脳卒中片麻痺患者にそのまま実施することが困難となったためである.現在では,運動主体感を臨床現場で計測することのできるプロトコルを考案している段階であるため,臨床でのデータ収集が遅れている.一方で,2018年度に開発する予定にしている「運動主体感を高めるニューロリハビリテーションの開発」について,既に体性感覚機能を向上させる物理刺激装置を整備し,運動主体感の基盤となる多感覚統合機能を高められることを健常者対象の実験で明らかにした.リハビリテーション手法の開発を先回り的に実現できたことを含めて,本研究はおおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
臨床現場で実施することのできる運動主体感の定量評価プロトコルを作成し,実際の臨床現場で「運動主体感は運動麻痺の回復に影響を与えるのか?」について,縦断的に検証していく.そして,運動主体感を構成するエレメントを修飾するようなニューロリハビリテーションを開発・検証していく.具体的には,Transcranial Direct Current Stimulation(tDCS)による運動指令の増幅や,随意運動介助型電気刺激装置を用いた運動-感覚ループ機能の改善によって,運動主体感を生起するとともに,運動麻痺が回復するのか否かを検証することを計画している.
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