研究領域 | 脳内身体表現の変容機構の理解と制御 |
研究課題/領域番号 |
17H05918
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
宮田 なつき 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 主任研究員 (90344225)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | デジタルハンド / 関節可動域 / 人工的制約 |
研究実績の概要 |
本研究では,健常者の手指関節の動きを人工的に制約して疾患状態を再現し計測を行うことで,身体的な制約に応じて人がどのように環境に適応し把持を行うかを解明することを目指す.H29年度はまず,健常な手の母指可動域の人工的な制約を安全かつ確実に実現する方法として,理学療法に用いられる非伸縮性のテープを用いた手法を検討した.把持で重要な役割を果たす母指に着目し,手根管症候群患者での中手手根(CM)関節の掌側外転動作の制約と,手に対して大きな物体を把持する際に他の関節よりも大きく伸展しサイズへの適応に寄与する中手指節間(MP)関節に制約を施すこととした.ここで,母指CM関節は鞍関節とよばれ三次元的に動く二自由度関節であるため,その姿勢表現方法を提案し計測することで,制約前と比較し,狙い通りに可動域が制約されていることが定量的に確認できた.また,テーピングによる制約を施した1名の被験者による大小二つの角柱について,代表的な把持形態である握力把持と精密把持の発現を見込み“ハンマーのように振り下ろす”“向きを変えながら移動させる”の2種類のタスクをそれぞれ10回ずつ繰り返させ,接触領域およびタスク実行に要した時間を計測した.4条件のうち3条件については,10回の繰り返しに伴い所要時間が減少し,接触領域も一つのパターンに収束した.タスク実行時間が収束したケースでは,タスクにより把持形態(接触領域パターン)は異なるものの,健常手で母指の腹を使っていたような把持形態が,母指側面を使う形態に移行する傾向があることが分かった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
人工的制約方法の基本的な手法については構築でき,制約による物体把持姿勢の変容を接触領域の変化を確認することができたが,まだ1名分の観察にとどまっており複数名でも変化があることを示す必要がある.また,力学的な質の変化についての解析もまだまだ進める必要がある.
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,疑似的な可動域制約による健常者の戦略変容の観測と分析が可能な環境を改良するとともに,可動域制約に対応した把持姿勢推定に向け,模擬する特定疾患(制約する部位)のバリエーションと,力学的な解析項目を拡充し,姿勢生成を目指す. (1)簡易的な関節可動域制約下での把持戦略変容計測の拡充:テーピングにより可動域制約を施す対象関節として,前年度と同様の母指について被験者を増やして実験を行うとともに,対象関節を変更して計測し,健常者の把持姿勢の変化の典型的な傾向を明らかにする. (2)戦略変容理解のための把持姿勢の力学的評価手法の拡充: (1)で計測された身体モデル変容前後での把持戦略の違いを,手が物体に与える力学的効果の観点で捉え,姿勢推定時に満足すべき条件に変換することを目指す.前年度解析の準備を行った筋骨格モデルでの評価に加え,外乱に対する把持の頑健性などについて評価を試みる. (3)戦略変容後の姿勢の推定手法の構築:(2)による力学的評価結果を踏まえ,戦略変容後に重視される力学的評価項目を使って姿勢を推定する手法を構築する.
|