質問紙を用いた多くの調査データは自記式の回答に基づく場合がほとんどであるが,それには言わずもがな各尺度項目に対する回答者自身の反応傾向などの回答バイアスが色濃く反映される。しかも,思春期を含む比較的低年齢層を対象とした自記式回答データではこの問題は更に大きくなり,調査データの信頼性は低くなる傾向にある。取りも直さず,信頼性の低いデータからは分析結果に関する適切な推論も困難となる。そこで,本研究計画では,自記式の調査データには反応傾向という回答バイアスが含まれることは所与とし,それらを統計モデルを用いて柔軟に補正することによって,結果からより適切な解釈を導くことが目的としていた。その回答バイアスの補正のための方法として近年最も有力視されているのが係留寸描法である。この方法を用いたバイアス補正は,バイアス含みの自己評定を行った後に,関心下の特性について複数の仮想的な人物に関して描写された情報も併せて読んでもらい,それらの人物について評定も得た上で,その情報をその前で得ている自己回答のバイアス補正に活用する。そもそもは政治学分野で開拓されたが,近年は健康科学や心理学においても活用され始めているが未だ黎明期にあるため方法論や分析手法は十分に確立されているとは言い難い。本研究計画の最終年度である平成30年度では,昨年度から引き続き,PISA調査で実際に用いられた係留寸描項目を対象に分析を行い,統計的に適切な補正をかけた後の結果に関する解釈について論文としてまとめることを目指した。また,バイアス除去のための統計的な方法論としての側面からもアプローチし,思春期の子どもたちが回答傾向がどの程度経時的に不安定であるのか検証し,現在,英文誌に投稿中である。ビッグデータの時代にあって世界規模の公開個票データを活用していくことは非常に重要であると考えるため今後も本研究を発展させるべく努力する。
|