公募研究
当事者研究を通じた自閉スペクトラム症群の主体価値計測においては,松元健二教授,熊谷晋一郎准教授との綿密な連携のもと,当事者研究参加前の 20 名において,MRI中にて多数のシナリオに対する道徳判断・意図性判断課題を行っている際の機能画像を計測した.また首尾一貫感覚・互恵性指標・道徳基盤質問紙など多様な主体価値計測を行なった.20 名の定型発達群との比較により,自閉スペクトラム症群においては,負の副作用が生じるシナリオに対する意図性判断が強まる現象(Knobe効果/副作用効果)が有意に減弱していることが明らかになった.また,道徳判断において行為者の意図をどれだけ考慮するかの指標(意図主義指標)が,自閉スペクトラム症群において有意に減弱していることも明らかになった.これら二つの指標間には,個人間で正の相関が見られた.すなわち,強い Knobe 効果を示す参加者ほど,意図主義指標も強いといえる.こうした結果より,負の意図性と負の道徳性との双方向性の連合関係が,自閉スペクトラム症群においては,弱まっていることが明らかになった.この結果は Knobe 効果のメカニズムの解明に新たな示唆を与えるものである.当事者研究の前後における主体価値の変容に関するデータについては,現在 7 名のデータを取得している.予備的な解析では,自閉スペクトラム症指数における社会技能のサブスコアが改善し,また負の互恵性(報復傾向)が減少する傾向が観察されている.以上の結果については,複数の国際学会・国内学会で報告を行った.さらに,思春期前後での主体価値の変容の計測においては,西田淳志プロジェクトリーダーの支援を得て,Personal Values Questionnaire を計測するiPadアプリの提供を受け,PVQ と道徳的な主体価値との関係を検証するための,リクルートの手続きを進めた.
3: やや遅れている
本研究は,熊谷晋一郎准教授を代表とする当事者研究の臨床研究と並行して進行している.現在,臨床研究プロジェクトは,第一期のデータ取得を終えているが,第二期の募集開始のための準備が遅れている.そのため,当事者研究参加前後での比較にはまだ十分なデータはそろっていない.しかし,当事者研究参加前のデータについては充分なデータ取得が完了し,定型発達群との比較で明瞭な差異を観察することができた.
思春期における主体価値の変容を明らかにするための計測ツールについては C01 計画研究グループから支援を受けることができ,玉川大学内でのデータ取得の手続きも進行している.今後は,思春期前後の脳機能イメージング計測を完了し,その道徳的な主体価値の神経基盤を明らかにしていく.また,平成30年度7月より参加者のリクルートの開始が予定される臨床研究の第二期に向けて,取得する主体価値の項目を十分に吟味し,データの質と量を高めていくとともに,脳機能画像・構造画像の解析をすすめ,当事者研究を通じた主体価値の変容の神経基盤について,解明する.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) 学会発表 (11件) (うち招待講演 2件) 備考 (3件)
at プラス
巻: 32 ページ: 83-96
http://utcp.c.u-tokyo.ac.jp/members/data/iijima_kazuki/
https://www.researchgate.net/profile/Kazuki_Iijima
https://researchmap.jp/kiijima/