自発的な発声学習行動によって、発達過程における脳内遺伝子発現及び、エピジェネティクス動態がいかに影響を受け、その後の個体レベルでの行動様式の「個性」創発に関わるのか検証することを目的として研究を進めてきた。研究対象としたキンカチョウは、学習臨界期に1日につき数百回以上の発声練習を自発的に繰り返すことにより歌を完成させ、獲得した歌はその後一生涯維持される。しかし、この自発的な発声練習量に個体差が存在する。前回の公募研究では、学習臨界期中の発声練習回数・頻度をコントロールし、人為的に発声行動量の個体差を誘導し、その学習効率及び、学習臨界期への影響を検証した。その結果、学習臨界期中の発声練習量を制御した場合、本来であれば歌パターンが固定化する成鳥になっても、幼鳥のような未熟な歌を出し、さらにその時点からでも発声学習ができることが明らかになった。また、ソングシステムにおける遺伝子発現動態をゲノムワイドに検証した結果、多くの遺伝子群が正常個体と同様に日齢により発現調節されるなか、脳部位(歌神経核RA)特異的に発声練習時にだけに発現誘導され、かつ発声学習の終了と共に読み出されなくなっていく119個の神経活動依存的遺伝子群の存在を明らかにした。これらの結果は、発声学習臨界期制御は、日齢ではなく発声経験の蓄積が重要な行動因子になること、そしてこの自発的に生成される発声行動に個体差が生じる余地があることを意味する。
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