公募研究
キイロショウジョウバエのfruitless遺伝子座はニューロンの性決定因子(雄化因子)として機能するタンパク質、Fruitlessをコードしている。この遺伝子の機能喪失型変異(例えばsatori突然変異体: frusat)では、雄が雄に求愛する同性愛行動が高頻度で生ずる。この同性間求愛は、frusat変異体の雄が他の雄個体と生活を共にしたのちに顕在化し、単独飼育により社会経験を剥奪すると著名に抑制される。したがって、遺伝子型と経験とによる個性の表出と見做すことができる。集団satori変異体雄は、動く縞模様刺激に対しても同様に求愛することから、この行動は視覚刺激によって惹起されることがわかる。そこで、求愛意思決定ニューロンであるP1ニューロンに、求愛開始刺激を送り込むニューロンをCa2+ imagingとニューロンの強制活性化によって探索し、特定の高次視覚性介在ニューロン群に絞り込むことができた。こららの視覚性介在ニューロンは、いくつかのサブグループに分類され、求愛行動に関わるのは、そのうちの一つだけである可能性が29年度の実験結果から推定された。そのニューロン集団は形態的特徴から、求愛意思決定ニューロンであるP1に入力する可能性がある。この点を明確にするには、視覚性介在ニューロン群をチャンネルロドプシンを介して刺激し、P1ニューロンからCa2+ imagingを行なってシナプス後応答の存否を検討することが考えられる。より直接的な方法は、P1から電気的応答を記録することであり、次年度にはこのアプローチを試みる。
2: おおむね順調に進展している
Janelia Farm Research Instituteによって作成された一連のflylight系統の中から、形態的にP1ニューロンへの入力が期待される高次視覚性介在ニューロンに特異的発現を有するものを選びたし、発現交差法を用いて少数のニューロンにチャンネルロドプシンのChrimsonを発現させた。これらを光照射により活性化させたところ、雌を追跡して求愛する際に特徴的なクイックな側方へのターニングを誘発する細胞が見出された。これらを強制活性化させた場合には、ターニングの方向と一致した方向性のある片翅バイブレーションを随伴することから、間違いなく求愛行動の構成要素であると判断される。また、GRASP法によるGFP機能的再構成に基づく解剖学的実験からも、このニューロン群とP1ニューロンとがシナプス接続をする可能性が示唆された。
平成30年度には、社会経験によって生ずP1ニューロンの特性変化の実体解明に重点を置く。具体的には、体の中に脳がある状態でP1ニューロンをパッチクランプし、in vivoでの生理的特性を明らかにする。特に、集団生活後にはP1ニューロンがより求愛行動を惹起しやすくなると推察されることから、K+チャンネルの機能に負の修飾がかかる可能性を想定し、whole cell clamp下でのK+電流の挙動を、実験個体の社会経験の有無と対応づけながら解析する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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