研究領域 | 多様な「個性」を創発する脳システムの統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
17H05938
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岡田 泰和 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (10638597)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 社会席昆虫 / カースト |
研究実績の概要 |
アリの行動を長時間かつ長期間観察し続けるため,行動の自動トラッキング技術の開発を行ってきた. アリの背中にエナメル塗料で着色,もしくは二次元バーコードを貼り付けて,撮影画像から行動を追跡する技術を開発し,子育て業務があるときとないとき,など社会状況に応じてワーカーの行動パターンが臨機応変に変わることが明らかになってきた.行動追跡自体は,おおむね可能になったが,ローリングシャッターという一般的手法による カメラ撮影は,残像を残すなどバーコード検出精度を下げているという難点に直面しており,個体差を精緻に捉えるため,映像の精度をあげるさまざまな条件検討・工夫を続けている. トゲオオハリアリでは女王とワーカーが巣内の順位によって明瞭な行動分化をとげる.つまり社会的経験がその後の行動・生理パターンを大きく方向づける.羽化してから7日間以内の短いスケールで,行動発達に伴う遺伝子発現の変化をRNAseqで調べ,インスリン経路などの代謝系因子(昆虫では脳がインスリンを放出する器官のひとつ)やドーパミン経路因子が,行動差と関連していることを明らかにした. さらに長期間にわたる広範なトランスクリプトーム解析や,さらにはエピゲノム解析への拡張を図るため,トゲオオハリアリ(Diacamma sp.)のゲノム配列解析に着手した.ヒトやサルなど向けに開発された,安価に高精度のゲノムシーケンスができる10xGenomics社のChromiumシステムのアリゲノム解読への活用を開始した(A03 郷 康広氏,重信 秀治氏との共同研究) .平成29年度は,Chromiumシステムに適した長鎖のDNAを抽出する方法を検討し(Chromiumでは途切れのない長いDNA断片が準備できるほど,繋がりがよいゲノムが得られる),解析に適した長鎖のDNAが得られつつある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バーコードを使った行動追跡は,技術は使用可能になってきたが,使用するカメラの性能(ローリングシャッターといわれる一般的な機構)によって,残像が発生し,しばしば検出ロスが生じる問題に直面している.また,トゲオオハリアリはかなり力が強く,長期間のバーコード貼付けは剥がしてしまうことがあることがわかり,バーコードの材質や接着方法について試行錯誤を繰り返している.長期間・精緻な行動追跡は上記の問題が解決すれば,問題なく進めていける. ゲノム解析については,領域で導入された新規システムChromiumの活用を決めた.従来の手法より精度・価格の面でまさるが,昆虫への導入例はまだ少ないため条件検討にやや時間を要している.A03 郷 康広氏,重信 秀治氏らと綿密に打ち合わせながら進めており,手法が固まれば,ゲノム解読,リシーケンス,エピゲノム解析につながる有用な技術にできる.
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今後の研究の推進方策 |
バーコード追跡時のローリングシャッターによる残像発生の問題は,グローバルシャッターといわれる残像が出にくい撮影系に切り替えることで問題を解決できると考えており,バーコードタグと撮影システムを改良し,活動パターンの大規模トラッキングを完成させる. ゲノム解析における長鎖化については,sage HLSによるDNA抽出などの最新技術を取り入れ,Chromiumに最適化した しくみを構築する.これらが難しい場合,従来のIlluminaとPacBioを用いたシステムでゲノム配列解析を行う. ゲノム情報が得られれば,トランスクリプトーム・エピゲノム解析が行いやすくなるため,ゲノム配列解析の完成を確実に進める. 個体差を説明する候補遺伝子については,脳や代謝器官におけるトランスクリプトーム解析を引き続き広範に行い,行動分化メカニズムについて,知見を得る.
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