研究実績の概要 |
こどもの経験に応じて神経回路が集中的に作られる時期を「臨界期」という。臨界期に作られた神経回路は生涯にわたり保持される傾向にあり「個性」の基盤となる。Otx2の量を増減させると臨界期の始まりや終わりを人為的に操作できることから、Otx2標的遺伝子の網羅的探索を行い、臨界期の分子機構の解明を目指した。 Otx2は転写因子として良く知られている。Otx2のゲノム上での標的遺伝子をChIP-seq解析により探索すると、転写因子やクロマチン制御因子が最も顕著に同定された。特に、Otx2の標的遺伝子にはDNAメチル化やクロマチン構造に関わる遺伝子が多く含まれることから、臨界期におけるOtx2の役割とエピゲノムの重要性をまとめた(Sakai&Sugiyama, Dev. Growth Differ. 2018)。 また、Otx2は特定のmRNAの翻訳制御に関与すると考えられる。特に、コンドロイチン硫酸量を転写と翻訳の両面から促進することを明らかにした(Igarashi/Sugiyama, Neurochem. Int. 2018)。コンドロイチン硫酸転移酵素CSGalNAcT1は、Otx2のゲノム上の標的遺伝子であり、Otx2を欠損した抑制性細胞では発現が減少する(Sakai/Sugiyama, 2017)。さらに、Otx2はコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの翻訳に関与し、Otx2投与により発現が増加する(Hou/Sugiyama, 2017)。一連の解析から、臨界期に必須の抑制性ニューロン(PV細胞)の分化・成熟には、転写だけでなく翻訳制御が必要となることを発見し、論文発表の準備をしている。また、申請者の視点から、臨床の先生方に臨界期についての最近の知見を広く紹介した(杉山&侯、眼科 2019)
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