公募研究
ヒトや動物の意思決定には,結果の予測や評価に基づいて行動表出を調整する目標指向モードと,結果の予測・評価をスキップし自動的に行動を表出する習慣モードの2つの制御モードがある。通常は学習段階に応じたモード間のバランスが取られているが,ストレス等の精神疾患リスクファクターへの暴露は恒常的な習慣モード優位状態をつくりだし,その結果,生活体は不適応に陥ると考えられる。その一方で,シビアなストレスを経験したからといってすべての人が精神疾患を発症するわけではなく,ストレス脆弱個体と弾力性(レジリエンス)を備えた個体が混在している,という事実を鑑みると,意思決定においても“個性”が存在し,これがストレス反応性の個体差と関係している,という仮説が立てられる。研究代表者は,意思決定の素過程であるオペラント条件づけを多数の非近交系ラットに訓練したとき,目標指向モード優位な個体群と習慣モード優位な個体群が同定されること,さらに,後者において,ストレス負荷(グラム陰性菌の細胞壁外膜由来の催炎症物質であるリポ多糖の全身投与)に対する脆弱性がより高いことを報告し,作業仮説を実証した。その一方で,オペラント条件づけを経験した動物は,経験しなかった動物に比べるとより高いレジリエンスを示し,ストレス負荷時に,体重低下や強制水泳試験における無動時間の誘導が減弱していた。この発見は,電撃のような嫌悪刺激を受動的に受け続けた動物が,将来のストレスコーピングへの動機づけに障害を来す,という“学習性絶望”の研究にも通じる。しかし,自らの能動的な行為とそのポジティブな結果(報酬)の間の随伴性を経験することでレジリエンスが亢進する,という現象は,研究代表者が知る限り,これまで報告されたことはない。今後の研究成果は予防医学・公衆衛生学的な意義をもち,これまで困難であった精神疾患の発症予防に繋がると期待される。
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
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Neuroscience Research
巻: 135 ページ: 1~12
https://doi.org/10.1016/j.neures.2018.02.001