味や香りの好き嫌いは報酬・危険信号として機能する生得的な情動である一方で後天的な修飾も受け、我々の個性を構成する。同様に、積極性も生得的・後天的に制御され、情動と密接に関与する。しかしながら、情動価値の個性に関する神経回路基盤には未だ不明な点が多い。我々はこれまで、橋の腕傍核から情動を担う扁桃体へ投射する直接経路が、負情動をうみだす忌避信号として機能すること、経験依存的な長期増強を示すことを見出してきた。また、腕傍核には甘味・苦味や積極性・消極性など、相反する情動を担う細胞群が混在して存在している。そこで、本研究では情動価値をコードする細胞群を個別に可視化する。さらに、光電気生理解析の結果にもとづき、個体レベルで人工的可塑性を誘導し、好き嫌いや積極性の逆転・レスキューを誘導することで、人工的な個性の書き換えという視点から、情動回路の本態を明らかにする。 本年度の研究実績としては、異なる味質よって活性化される脳領域とその細胞種特異的マーカーを同定し、二重染色による細胞種特異的マッピングを行った。個体レベルで味質依存的に神経回路を個別に可視化し、さらに細胞種特異的Creドライバーマウスと各種改編ウイルスを用いることで、光電気生理学実験手法による神経回路制御機構の詳細な解析を行った。さらにこれらのマウスを用いて行動学的にY字迷路学習、ストレス応答性、味覚嗜好性、摂食行動制御などを解析した。得られた結果は情動的な個性を生み出す脳内機構の可視と操作という観点から当該領域の目指す生得的・後天的な個性創発メカニズム解明に繋がることが期待される。
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