社会行動を制御する神経回路の同定とその機能解析、さらに、その成果に基づく個性検出系の構築を試みた。catFISH法を用いて、社会識別制御を担う脳領野の同定を試みた結果、海馬と前頭前野では、既知のマウスの提示により同じニューロンが活性化されるのに対して、未知のマウスの提示により異なるニューロンが活性化されることが示された。従って、前年度のc-fos発現とプロテアソーム依存的タンパク質分解をマーカーとした解析結果に一致して、海馬と前頭前野が社会記憶と社会識別に重要な役割を果たすことが示唆された。そこで、前頭前野に着目し、前頭前野を中心にして社会行動と社会記憶を制御する神経回路の同定と、その機能的役割の解析を試みた。前頭前野に逆行性トレーサーを注入し、前頭前野に投射し、さらに、社会行動と社会記憶形成時に活性化するニューロンをc-fos発現誘導を指標にして同定した。その結果、扁桃体から前頭前野への経路は社会行動発現に伴い活性化するのに対して、前帯状皮質、視床室傍核、海馬などから前頭前野への経路は社会記憶形成に貢献することが示唆された。次に、これら回路の役割を明らかにするために、扁桃体の興奮性ニューロンに神経細胞を不活性化する光感受性タンパク質を発現させて、前頭前野への投射を不活性化した影響を解析した。その結果、扁桃体→前頭前野経路の不活性化は社会行動を減少させ、この経路は社会行動を制御することが示唆された。以上より、前頭前野を中心とした回路により社会行動が巧妙に制御される実態が示唆された。さらに、以上の結果に基づいて、c-fos発現を指標にして社会的ストレスを受けたマウスの社会行動制御回路の特性をin silico解析し、社会行動の性状の差異に基づく個性検出を試みた。
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